今週末見るべき映画「テンペスト」

2011年 6月 10日 10:37 Category : Art

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 英語を習い始めた中学生の頃、どなたの訳かは失念したけれど、「生か死か、それが疑問だ」という、シェイクスピアの「ハムレット」の有名なセリフを知った。もちろん「ハムレット」を読む前である。原文を調べて、「be動詞かbe動詞でないか、それが分からん」などと訳したジョークを読んで、喜んでいたものである。


 そのシェイクスピアの最後の戯曲といわれている「テンペスト(あらし)」は、かつて、いろいろな翻案で、何度も映画化されている。このほどの新作「テンペスト」(東北新社配給)は、オフ・ブロードウェイの舞台で演出したこともある女流、ジュリー・テイモアの脚本、監督による。

 「テンペスト」は、背景に政治の謀略があり、妖精たちの魔術を駆使しての復讐、そしてその顛末と、演劇としての面白さ、たっぷりである。さらに、親と子、主人と従者、若い男女のロマンスが、比喩に満ちた、含蓄のあるセリフで語られる。「テンペスト」だけではなく、シェイクスピア戯曲のセリフは豊饒、映画作家たちが映像で再現したくなるのは当然だろう。

 本作は、弟の謀略でミラノを追放された主人公のプロスペローを、女性に置き換えての演出だが、まったく違和感は感じない。一部、話の順序が入れ替わったりするが、ほぼ原作通りのセリフ、進行だ。

 プロスペラという女性名で、シェイクスピアの華やかなセリフを、名優ヘレン・ミレンが、たっぷりと語る。さらに、主人公を女性に設定したことで、母の娘に対する情愛が加味され、新たな解釈となっている。

 謀略をめぐらすミラノ大公アントーニオに扮するクリス・クーパー、空気の妖精エアリアル役のベン・ウィショー、酒蔵係のステファーノを演じるアルフレッド・モリナをはじめ、脇役に芸達者がズラリ。

 これは、復讐劇ではあるが、魔術や妖精の出てくる、喜劇である。登場人物のさまざまな背景、性格が、コメディタッチの豊かなセリフで描き分けられる。それぞれのセリフが聞きどころである。ここには、政治のおぞましさ、駆け引き以上に、人間についての深い洞察がある。人間と妖精、支配するものと支配されるもの、男と女、要は、「人間」を描いているのである。饒舌ともいえる、数々のシェイクスピア劇のセリフの中に息づいているのは、やはり「人間」だろう。

 ずいぶん前に読んだけれど、改めて「テンペスト」を読んでみたが、やはり面白い。人の世の儚さが、ズシリと伝わってくる。第四幕第一場の有名なプロスペローのセリフの翻訳はこうである。「われわれ人間は夢と同じもので織りなされている、はかない一生の仕上げをするのは眠りなのだ」(小田島雄志訳)。さらに、第五幕第一場の、プロスペローの娘ミランダの有名なセリフは、「なんてすばらしい! りっぱな人たちがこんなにおおぜい! 人間がこうも美しいとは! ああ、すばらしい新世界だわ、こういう人たちがいるとは!」(小田島雄志訳)だ。

 儚いけれど、儚いがゆえの人生への賛歌が、謳われる。

 戯曲そのもののおもしろさに加えて、映画では、CGを駆使した特殊効果が、あざやか。エアリアルの変幻自在ぶりや、復讐のために用意された豪華な料理のテーブルなど、楽しめるシーンが相次ぐ。

 オチもさわやか。ハラハラドキドキした後に、安堵感で満たされる。エンド・クレジットでは、「テンペスト」のエピローグでの、プロスペローのすてきなセリフが、そのまま歌われる。ジュリー・テイモアの映画「テンペスト」は、シェイクスピア劇の持つ魅力がたっぷり、引き込まれてしまう。

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