今週末見るべき映画「人生、ここにあり!」

2011年 7月 22日 09:42 Category : Art

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 少しくらい、頭がおかしくても、精神を病んでいても、人生は豊か、何とかなる。精神病の患者であっても、その優れた感覚、技術は、病んでいるからこその才能かも知れない。患者たちが精神病院から解放される。手に技術があれば、稼ぎになる。人が人らしく生きることができる。そのような人生讃歌が、イタリア映画「人生、ここにあり!」(エスパース・サロウ配給)だ。

イタリアの精神保健法180号の、通称バザーリア法は、1978年5月に公布。これは世界初の精神科病院廃絶法だ。名称は精神科医フランコ・バザーリアにちなむ。

 映画は、1983年ころのミラノが舞台。精神病患者たちは、病院から解放され、社会復帰を目指すことになる。さまざまな形の精神を病んだ人たちの社会復帰の過程が、丁寧に描かれ、笑いと涙を誘う。仲間同士の時間をかけての議論、稼ぎにならない現状を克服、稼ぎになる仕事の受注などがスピーディに描かれる。元患者とはいえ、人間らしい欲望をどう処理するのかや、元患者と注文先の女性との恋愛などなど、じっさいにあったエピソードを、うまく脚色、ドラマを牽引する。

 組合で、過激な発言を繰り返している中年男ネッロが、左遷される。精神病院を出された患者たちの、社会復帰を目指す協同組合が左遷先。やる気のない患者たちに、自立を願うネッロの奮闘が始まる。ネッロたちに、いったい何が出来るのか。

 以前、想田和弘監督のドキュメント映画「精神」を見た。心を病んだ患者と医師のやりとり、その周辺の人たちの言動が、淡々と描かれる。よけいなナレーションや効果音はいっさいなし。患者は医師に、夢を見たり、睡眠不足や、死にたいといった気持ちを、素直に告白する。ちゃんと、自覚症状を訴える。見ているうちに、まるで、患者が正常であって、正常な人こそが異常に気がつかないのでは、といった不思議な感覚に襲われる。

 つまり、精神を病む病まないは紙一重。なにより、映画から感心するのは、精神を病んでいても、健康に、人らしく生きようとする思いは、誰でも、ちっとも変わらない、ということだ。

 原題の「シ・プオ・ファーレ」は、「やればできる」といった意味。一見、うまくいくかと思われた協同組合の活動に、不幸な出来事も起こる。挫折もある。それでも、「やればできる」と信じて、ネッロたちは、厳しい現実に立ち向かう。

 就業活動の先頭に立つネッロを演じるクラウディオ・ビジオは、精悍な面持ちで、達者な演技。髪はいささか薄く、たくわえたヒゲ面は、アストル・ピアソラの風貌にも似て、親近感もたっぷり。

 患者たちの豊かな個性を、丁寧に描いた監督はジュリオ・マンフレドニア。まだ長編3作目ながら、すでに手だれの演出ぶり。まったく健常と思える患者たちの言動は、健常と思っている大多数の人たちに、心を病むとはどういうことか、深く考えさせられる。

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