賛否両論の問題作「ツリー・オブ・ライフ」

2011年 8月 16日 14:13 Category : Art

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 映画の冒頭、旧約聖書のヨブ記38章の4節「わたしが大地を据えたとき おまえはどこにいたのか」と、7節「そのとき、夜明けの星はこぞって喜び歌い 神の子らは皆、喜びの声をあげた」が引用される。

 おそらく、旧約聖書のなかでも、もっともエキサイティングと言われているヨブ記が、テレンス・マリックの新作「ツリー・オブ・ライフ」(ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン配給)を通底するものと思われる。そして、その通り、まさに映画は神への語りかけに終始する。タイトルからして「生命の樹」、アダムとイヴが追放されたエデンの園にそびえる大樹である。


 テレンス・マリックが、今までに撮った監督作品はわずか4本。1973年「地獄の逃避行」、1978年「天国の日々」、1998年「シン・レッド・ライン」、2005年「ニュー・ワールド」である。高い完成度、寡作ゆえに、新作が待たれる作家である。このほどのカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した本作は、哲学者でもあるテレンス・マリックの哲学と宗教についての告白と言えるかもしれない。

 哲学では真を、道徳では善を、芸術では美を、宗教では聖を追求するものとすれば、いま、なぜ、テレンス・マリックが、映画の形をとって、真善美聖を語るのだろうか?海の中から生命が誕生して、何十億年経ったかは知らないけれど、テレンス・マリックは、壮大なスケールの映像を挿入する。

 暗闇に燃えさかる炎。宇宙の生成を思わせるイメージ。そして、水の中から生命が誕生する瞬間。深海のクラゲ・・・。さらに、地球の歴史を辿るかのように、地下からのマグマ、スーパープルーム、巨大生物の滅亡した古世代、小天体の衝突による生物の絶滅などをイメージした映像が続く。

 一見、スタンリー・キューブリックの撮った「2001年宇宙の旅」の、キア・デュリア扮するボーマン宇宙飛行士が、木星に突入するシーンに、似ていなくもない。難解な映画ではないけれど、途中に挿入される天地創造をイメージする映像の是非や、全体の評価をめぐっては、カンヌでも賛否両論、分かれたようである。

人間が人間として生きるには、謙虚さ、優しさが不可欠と思う。この当たり前のことが、当節、疎んじられている。これは、アメリカだけでのことではない。いま、テレンス・マリックが本作に託したことは、神への語りかけを通して、謙虚であれ、人たるには優しさが必須、ということではないかと思う。

 しつけの厳しい父親と優しい母親、まだ幼い男の子が3人いる家族の話である。教会に通い、食事どきにはブラームスの交響曲を聴くといった家庭である。父をブラッド・ピット、反抗期を経て成人した長男をショーン・ペン、母をジェシカ・チャステインが演じる。

 短めの多くのショットが続く。基本的には、成人したジャックの回想だが、いくつかのシーンは、ヨブ記を思い起こす。どのシーンも含蓄、示唆に富み、映像で綴られた詩のようでもある。2時間18分の長尺、飽きることがない。

 庭で3人の子供たちが遊んでいる。そこに、スメタナの交響詩「わが祖国」より第2曲の「モルダウ」が挿入される。庭に水を撒く母。自らの足にも水をかける。洗礼の水かもしれない。

もちろん、演技には、ケチのつけようがない。ブラッド・ピットも、ナレーションだけのショーン・ペンも、いまや名優の域。演劇の基本がしっかりのジェシカ・チャステインも、控えめだが、表情での演技に確かさを覚える。

 それにしても、本作を評すること自体、あまり意味がないように思う。これは、テレンス・マリックの私的映像、私的告白、私的祈りであり、その美しい映像に、素直に身を委ねるしかないだろう。

 映画を見て、レビューできないと思った。あらためてヨブ記を読んでみた。そうか、テレンス・マリックは、おごりたかぶる人間への神のメッセージを、映像にしたかったのではないか、と思った。映画「ツリー・オブ・ライフ」は、テレンス・マリックのヨブ記解釈に他ならない。このような作品の後、テレンス・マリックは、どのような映画を撮るのだろうか?

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