今週末見るべき映画「ゴーストライター」

2011年 8月 26日 10:16 Category : Art

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 政治家や芸能人などの著作を代筆する人を、ゴーストライターと呼ぶ。もちろん、本人に取材したりすることもある。かつて日本で、いわゆるゴーストライター事件があった。当時の首相、森喜朗の答弁指南書をNHKの記者が代筆したのではないか。また、やはり当時の首相だった麻生太郎が、雑誌「文藝春秋」に掲載した原稿を、朝日新聞の編集委員が書いたのではないか、と騒がれたことがあった。まあ、十分にあり得る話とは思う。

 映画「ゴーストライター」(日活配給)は、元イギリス首相の自伝執筆を依頼されたゴーストライターが、元首相の過去を調査、取材するうちに、CIA絡みの国際的な秘密、陰謀に巻き込まれていく。

 映画のイギリスの元首相は、2001年、ブッシュに協力して、イラク攻撃を推進したトニー・ブレアを想起するが、ブレアが結託したのはイスラエルだ。映画ではCIAとなっているが、どちらも親イスラエルであることに変わりはない。しかも原作、脚本のロバート・ハリスは、元政治ジャーナリスト。もちろん、ブレアが首相になる前から、イギリス政界の取材をしている。そう思って、映画を見続けると、腑に落ちる点が多い。


 サスペンスたっぷり、早いテンポの語り口である。シリアスな国際政治が絡んだドラマでも、あちこちに散りばめられたユーモアにニヤリとする。ユアン・マクレガー扮するゴーストライターは、イギリス人の設定で、いろんな人と交わす会話が一言多く、すぐにイギリス人であることを見破られてしまう。この一言の多さは、執筆依頼で呼ばれたゴーストライターと出版社側のやりとりや、元首相夫人に誘惑されるときの反応などに顕著、つい、笑ってしまう。

 このユアン・マクレガーがうまい。ほかの映画でもそうだが、ことに、事件に巻き込まれる役どころが合っているようだ。執筆に気乗りなく出かけた交渉の席で、つい本音を吐く。それが気に入られての採用となる。いささか気弱、正義感はあるものの、大金に魅せられてのライター気質を巧みに表現する。そして、お決まりのパターンだが、いつのまにか、おぞましい政治の陰謀に巻き込まれていく。

 脇役もまた、芸達者がズラリ。ブレアらしき元首相にピアース・ブロスナン。いくぶん007のイメージがあるためか、ややリアル感に欠けるけれど。元首相の妻がオリヴィア・ウィリアムス、秘書にキム・キャトラル。それぞれ腹芸たっぷり、しっかり見せてくれる。ワンシーンながら、重要な証言をする老人役に、イーライ・ウォラック。さらに、出番は少ないが、トム・ウィルキンソン、ティモシー・ハットンなど、名優がずらり。脇にうまい俳優が揃うと、作品に重み、説得力が増すいい例だろう。

 ゴーストライターには前任者がいて、死体で発見される。書き残した草稿には、暗号が仕組まれている。この隠された暗号の謎解きも加わって、ウェルメイド。ラストは、驚きのどんでん返し。ごひいきの監督のひとり、ロマン・ポランスキー健在を思わせる。ポランスキーは、長編処女作の「水の中のナイフ」以降、「ローズマリーの赤ちゃん」「チャイナタウン」「赤い航路」「戦場のピアニスト」などなど、題材やテーマは変わっても、監督の名前だけで観客の呼べる、数少ない監督のひとり。

 冒頭からのサスペンス。重苦しい曇り空、降りしきる雨、倦怠感に満ちた夜景などが映し出される。張り巡らされた伏線、緻密に計算されたドラマ展開など、見る者を引きつける作劇術は、独特のコクがあり、もはや職人芸だ。

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