今週末見るべき映画「女と銃と荒野の麺屋」

2011年 9月 16日 13:28 Category : Art

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 まるで三題話のようなタイトルである。思わず落語の「鰍沢」を思い浮かべた。諸説あるが、一般的には、「鉄砲」「玉子酒」「毒消しの護符」の三題で語られる傑作落語は、六代目三遊亭圓生の名演が残されている。元花魁の美女、人里離れた一軒家、鉄砲と、映画チャン・イーモウ監督の「女と銃と荒野の麺屋」(ロングライド配給)との共通点もいささか見受けられる。映画は、コーエン兄弟の傑作「ブラッド・シンプル」のリメイクである。

 不倫の妻とその愛人、夫、私立探偵が登場、私立探偵が、金目当てに夫を殺したことをきっかけに、残された三人の運命が狂い出す。そのリメイク、しかもチャン・イーモウの演出である。もう、それだけで、面白そう。事実、コーエン兄弟の「ブラッド・シンプル」の骨子を忠実に踏まえる。

 金をめぐっての殺人、欲に狂う人間の愚かさに、ややドタバタに近い笑いを盛り込む結構である。早送りで変化する気候、赤茶けた荒野の殺伐とした風景、衣装の鮮やかさなどなど、チャン・イーモウの華麗な美意識が散りばめられ、サービス満点の演出が存分に楽しめる。

 舞台は、万里の長城の西の果てに近いところ。万里の長城の東の果ては、秦皇島の南、山海關で海まで達するが、映画では長城の西端にほど近い荒野である。そこに旅人が相手と思われる一軒の麺屋があるという設定だ。冒頭、中国で人気ナンバーワン、お笑い界のスーパースター、ジャオ・ベンシャン(趙本山)が友情出演する。巡回警官隊の隊長に扮して、麺を食べるのだが、シリアスな演技なのに、つい、吹き出してしまう。

 麺屋はケチな主人が経営している。もう10年ほど前に、金で買ったと思われる若い妻を虐待している。妻は従業員のひとりと不倫中である。巡回の警察官が、荒野に停めた馬車での不倫現場を目撃、主人に告げる。怒った主人は、二人の殺害を依頼する。ところが、主人の貯めた大金に目がくらんだ警察官は、主人の依頼を裏切り、とんでもない犯罪を思いつく。ペルシャ風の隊商がやってくる。あざやかに剣を振り回し、いろいろな品物を売りつける。とんでもない商品まで登場する。

 舞台は麺屋である。三人の従業員が、麺を打つ。これが中国雑技も顔負けするほどの、痛快な名人芸。麺棒で延ばした後、指先で、遠心力を利用して麺を回転させる。次々と延びていく麺を、三人がリレーして、みごとに麺が打ちあがる。

 妻は、中国人女性らしく、気が強い。並みの男を手玉にとることは朝飯前といった風情だ。逆に、不倫相手の従業員は、気弱で、妻の言いなりである。巡回の警察官に扮するスン・ホンレイが存在感たっぷり。チャン・イーモウの「初恋のきた道」、チェン・カイコーの「花の生涯 梅蘭芳」、中井貴一と共演した中国映画「戦国」でも、記憶に残る役どころを演じている。口数が少なく、どこか不気味、雰囲気は、「ノー・カントリー」のハビエル・バルデムが扮した殺し屋に似ていなくもない。

 剣はもちろん、大砲、銃、矢と、いろんな飛び道具が、派手に出てくる。原題は「三槍拍案驚奇」。中国語の「槍」は、「銃」、もしくは「形や働きが銃に似た器具」、いわば、飛び道具のことである。チャン・イーモウは、剣、大砲、銃、矢を、画面いっぱい、迫力満点に撃ち放つ。「拍案驚奇」は、明末期の口語小説集のタイトルだ。直訳すると、「机を叩いて驚くほどの奇抜さ」といった意味だろう。

 コーエン兄弟の原作は、チャン・イーモウの手にかかると、「いろんな武器が飛び交い、机を叩いて驚くほど奇抜な話」ということになる。事実、本作の荒唐無稽さは、半端ではない。「ブラッド・シンプル」の有名なラスト・シーンを、ここでも再現する。まさに原題そのもので、「三槍」の意味が判明するラストは、鮮やかこの上ない。思わず、唸ってしまう。

 チャン・イーモウのケレン味がたっぷり。エンタテインメントに徹した作劇術は、流石である。なぜ本作の後、「サンザシの樹の下で」のような、ストレートな映画を撮ったのかが、よく分からないほどのケレン味を見せる。白酒をあおりたくなるほどの面白さ。チャン・イーモウは、リメイクとはいえ、やはり、すごい。

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