今週末見るべき映画「やがて来たる者へ」

2011年 10月 21日 00:00 Category : Art

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 過去も現在も、いったいに戦争で、何もしていないのに、常にひどい目にあうのは、決まって女性、子供、老人である。多くの映画で描かれた、弱者への虐殺は、第二次世界大戦の末期、北イタリアでも実際に行われていた。ボローニャに近い小さな村マルザボット。時は1943年から44年。ナチス・ドイツ軍と抵抗勢力のパルチザンが争っている。

 映画「やがて来たる者へ」(アルシネテラン配給)は、ドイツ軍によるマルザボット虐殺事件の顛末を、村に住む8歳の少女マルティーナの視点から描かれる。監督は、ジョルジョ・ディリッティ。

 山村のふだんの暮らしぶりが、きめ細かく描かれ、大人たちのそれぞれの立場、考え方の相違などが、さりげないセリフや行動を通して、明確になっていく。濃密な映画の時間が流れる。ごくふつうの農民たちが、戦争、内乱に巻き込まれ、自らの身を守ろうとはするが、やがて殺されるという、とてつもない悲劇である。

 背景の事情は複雑だ。かつて、ロベルト・ロッセリーニが「戦火のかなた」で描いたように、タヴィアーニ兄弟が「サン・ロレンツォの夜」で描いたように、当時のイタリアの時代背景は、複雑に絡まっている。

 第二次世界大戦では、イタリアとドイツは同盟国で、ともに連合軍と戦った。1943年7月、連合軍はシチリアに上陸、ムッソリーニは逮捕される。イタリアと連合軍の休戦協定が結ばれるが、これが内戦を伴う戦闘の始まりとなる。連合軍は、イタリアの南部を占領。ドイツ軍は、北イタリアを占領する。

 ムッソリーニは、ドイツ軍に救出され、北イタリアを統治する。戦場となったイタリアのあちこちに、イタリア解放と反ファシズムを願う抵抗勢力が組織される。この抵抗勢力が、パルチザンとして、ドイツ軍とファシズム勢力と争うことになる。

 悲劇は、ドイツ軍がパルチザンを正規の軍隊としなかったことである。国際法上の捕虜とみなさず、つまりは、何をしてもいい、ということになる。連合軍は、南から北に勢力を伸ばしている。ドイツ軍にとっては、ボローニャは戦略上、重要な場所。パルチザン勢力を一掃しないことには、連合軍の侵攻を防ぎようがない。

 そして、あちこちで、パルチザンの協力者という理由だけで、民間人の虐殺が始まっていく。マルティーナの家族は、地主ではないが、主に酪農や葡萄の栽培で生計を立てている。戦争がなければ、たぶん平和に暮らしていたはずである。そこに、ドイツ兵がやってくる。

 劇中、マルティーナのナレーションが入る。それは学校で書いた作文である。

 「わたしの家は農家です。小さな家族ですが、じき弟ができます。素敵な馬車に乗る地主さんの土地で働いて、父さんは”作物を納めさせすぎだけれど、地主だから”と言います。時々ドイツ人がものを買いにきます。言葉は通じません。なぜここに来たのでしょうか。なぜ自分の家で、自分の子供達といっしょに過ごさないのでしょうか。ドイツ人は武器でどこかにいる敵を撃ちます。連合軍と戦っているそうです。見たことはありません。あと、反乱軍がいます。彼らを追い払うために戦っているそうです。反乱軍も武器を持ちます。私達と同じ言葉を話し、服装も同じです。隊長はブーボです。皆怖れていても、彼を慕っています。ディーノ伯父さんも彼を思い、助けようと言います。父さんもやはりそう言います。でも土地は放っておけません。それからファシストも…」

 先生の声で、作文の続きが読まれる。

 「ファシストもやってきて、私達の言葉を話します。怒鳴って、反乱軍は山賊だ、殺せ、と言います。それで私は皆、人を殺したいのだと知りました。理由はわかりません」。

 母親は先生に詫びるが、先生は、ご心配なく、でもこれは焼いたほうが、と言う場面がある。この映画のメッセージがすべて込められた、秀逸なシーンである。

 さまざまな形で、映画は、人間同士の争い、戦いを描き続けてきた。歴史は、信教、思想の違いを始め、エネルギーや食料を得るための、つまりは、生き抜くための「殺しあい」でもある。未来永劫、これに歯止めをかけることは出来ないのだろうか。

 過去の多くの映画が伝えてきたことではあるが、伝え続けることの一つは、人間同士が争うことのない、平和への願いであると思う。映画は、時間つぶしのエンタテインメントでもあるけれど、もっともっと、平和への願いが叶う可能性を持ったメディアと思う。本作は、そのことを実証している。

 ドイツ軍による虐殺が始まる。救いはない。それでも、マルティーナには、「やがて来たる者へ」のタイトルが象徴するような奇蹟が訪れる。そして、せめてもの希望が、未来に託される。

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