今週末見るべき映画「エル・ブリの秘密」

2011年 12月 9日 10:35 Category : Art

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 この11月に亡くなった落語家、立川談志のまくらに、「グルメ、グルメというが、本当のグルメなら日本の空気は吸うな」といった意味のギャグがあった。ちょうど、グルメ、グルメと騒がれた時期だったのか、いい得て妙。誰が読むのか、グルメ関連の本が氾濫したこともあった。世界で最も予約のとれないというスペインのレストラン、エル・ブリについても、何人かの日本のグルメ・ライターが書いている。いったいに、たいていのグルメ本は、自慢話が多く、あまり面白くない。

 このエル・ブリというレストランを、ドイツ人の監督ゲレオン・ヴェツェルが取材、ドキュメント映画「エル・ブリの秘密」(スターサンズ、ドマ配給)を撮った。格段の演出はない。オーナーシェフのフェラン・アドリア率いるチームの創作メニューの開発を、淡々と追うだけである。

 エル・ブリでは、いろんな食材をいろんな調理法を駆使し、料理というより、まるでアート作品のように仕上げ、多くの皿をコース料理として提供する。しかも1年の半分しか営業しない。閉店中の半年は、来シーズンのメニュー開発にあてる。

 予約が取りにくいはずである。わずか45席ほどのスペースに、年間200万件もの予約が入るという。日本では、一見の客はお断りという料理屋があるが、エル・ブリは一見の客でも断らない。たまたま予約が取れて、エル・ブリを訪れた日本人もいるようだ。ただし、必ず予約客のみでの営業を貫いている。


 エル・ブリは、バルセロナから車で2時間ほどの、カラ・モンジョイという入り江に面した場所に立つ。もちろん、ミシュランの三つ星レストランだ。また、イタリアのミネラルウォーター会社サンペグリノが後援する「世界のベスト・レストラン50」では、2002年と、2006年から2009年の5回、世界一になっている。

 フェランは、いろんな食材を泡に仕立てたり、ミキサーにかけた食材を球体にしたり、いろんな調理法を考案し続けている。使う食材も、手に入るものなら、洋の東西を問わない。日本のオブラート、抹茶、柚子、柿、醤油なども、あちこちに取り入れる。ちょうど、日本の懐石料理の吉兆が、トリュフやフォアグラを取り入れたように。

 大勢の料理人たちが、フェランの指揮のもと、メニュー開発に励む日々が記録される。うまくいくこともあれば、味や見た目がダメなこともある。シェフたちは、フェランの味見や判断を伺いながら、さまざまな試作を試みる。一つの料理を完成させるだけではない。食器との組み合わせや、30皿から40皿ほどのコースとして提供する順序に至るまで、精細に検討を繰り返す。まるで、親方の指導で、宝飾品を手作りで仕上げる工房のような雰囲気である。

 パソコンに記録できなかったことで、フェランは怒りだしたりするが、ユーモアを忘れない。世界じゅうから選ばれた料理人たちが、フェランの指導を受け続けている。

 エル・ブリは、今年の7月30日で、レストラン営業を中止した。エル・ブリは、しばらくの間、料理研究財団として、さらに新しい料理の開発を目指すという。ラストシーンに登場する料理の数々が、エル・ブリの、そして、フェラン・アドリアの目指した現在の姿である。見事な美しさ、としか言いようがない。

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