今週末見るべき映画「イエロー・ケーキ」

2012年 1月 27日 00:00 Category : Art

このエントリーをはてなブックマークに追加

 チラシのコピーはこうだ。「原発の燃料になる黄色い粉イエロー・ケーキの真実を暴く」。2010年のドイツのドキュメント映画「イエロー・ケーキ クリーンなエネルギーという嘘」(パンドラ配給)を見た。見終わって、背筋が寒くなった。ほとんど知らなかったウラン鉱山の実態と、環境汚染の様相が明らかになる。

 映画は、原料のウラン鉱石を採掘し、鉱床くずという廃棄物を処理し、常に放射性物質の危険に晒されている歴史を、5年の歳月をかけて、ルポルタージュする。


 原発事故で揺れた昨年の日本。正確には、天災での事故ではなく、人災と言われている。甘い危機管理や危機意識の欠如の結果なのに、昨年のような出来事は想定外と言わんばかり。事故は、天災にしろ、機械的にしろ、人的にしろ、必ず起きる。原発では、いまの技術を持ってしても、制御が困難なこともありうる。そんな簡単なことが、いまだにお分かりにならない政府を持つ国民は、哀れだ。政府や電力会社の隠蔽体質に加えて、官僚や学者たちを、ひたすら「お金」で抱き込み、すべてを解決してきた愚かな歴史が、いま、明るみに出たようである。

 原発によって得た豊かさの裏に、核燃料となるウラン鉱の採掘や精錬、放射性廃棄物の処理に関わる人がいる。生きるためにやむを得ずウラン鉱山での職を選んでいても、常に懐疑的な人もいれば、安全と信じて従事している人もいる。もちろん、ウラン採掘のおかげで、大金を手にするのは大企業である。

 ナミビアの鉱山で働く女性の表情が、すべてを物語る。ウラン鉱山現場で爆破作業に従事している女性は、美容院でセットしながら、「幸せとは幸せに生きること。大切なのは望んでいたものが手に入れられること」と微笑む。職場の環境や健康状態について恋人と話したことはあるかの問いに、「彼は心配してくれる。でもどうしようもないことよ」と答える。続けて、「爆薬を使う仕事だから安全とは言えない。毎日、予想もしないことが次々と起こる」。微笑みが徐々に不安な表情になる。

 大学で学びながら働いている女性もいる。鉱山の放射能やチリは安全と思うかとの問いに「安全だとは思うけど100%じゃない。毎月のように病気になる人がいる。汚れた粉塵のせいよ」。体がどの程度、被爆しているか知っているかの問いに、「よく知らない…」と戸惑いの表情を見せる。

 そもそも、原子力産業の大企業は、現場の録音や撮影を許可しない。監督のヨアヒム・チルナーのクルーは、いくつかの隠し録音や、飛行機をチャーターしての撮影を敢行する。そして、いま、採掘の現場だった所が、どうなっているのかを、丹念に追いかける。

 原発の最後の廃棄物処理は、いまだ解決していないようである。本作で描かれた川上にあたる部分も、まったく解決のメドがたっていない。多くのお金を使っても、いまだ解決にはほど遠いと、映画は訴える。

 原発反対、廃止と声高に言う人もいるが、そう事は簡単ではないだろう。原発は、人類の生み出した、素晴らしい技術で、クリーンなエネルギーを得る方法だったはずである。ところが、不都合なことがいろいろと明らかになってきた。ここは冷静に、不都合なところを改めるべきだろう。制御できないものは見切りを付けることだ。私見だが、仮に原発をめぐるあらゆる問題が解決されたとしても、その有り余るエネルギーを、いったい何に使うのだろうか、と思う。別に、明治、大正の時代に戻れ、というのではない。高度成長のちょいと前くらいの生活だって、そう不自由はしないぞ、そんなふうにみんなが思えばいいだけのこと。

 映画は、核燃料を作らせる側と作る側の言い分を、バランスよく編集し、なお、残されている環境汚染の実態を提示する。では、どうすればいいのか。原発の不幸を知った日本の私たちに、大きな課題を突きつけているかのようである。

 世界は、ことに原子力をめぐる世界は、常に、利権を手にした富める者たちが、貧しい者たちの労働力を奪って成り立っている。そんな世界であってはならないのだが。

Related article

  • 今週末見るべき映画 「L.A. ギャング ストーリー」
    今週末見るべき映画 「L.A. ギャング ストーリー」
  • 今週末見るべき映画「郊遊<ピクニック>」
    今週末見るべき映画「郊遊<ピクニック>」
  • 今週末見るべき映画「スーパーメンチ -時代をプロデュースした男!-」
    今週末見るべき映画「スーパーメンチ -時代をプロデュースした男!-」
  • 今週末見るべき映画「誰よりも狙われた男」
    今週末見るべき映画「誰よりも狙われた男」
  • 「湾生回家」 【今週末見るべき映画】台湾生まれの日本人「湾生」を通じ日台を描く
    「湾生回家」 【今週末見るべき映画】台湾生まれの日本人「湾生」を通じ日台を描く
  • 今週末見るべき映画「アメリカン・ハッスル」
    今週末見るべき映画「アメリカン・ハッスル」

Prev & Next

Ranking

  • 1
    山中俊治ディレクション「骨」展
  • 2
    コムロタカヒロ氏、インタビュー。「KISS THE HEART#3」
  • 3
    建築家ピエール・シャローの知られざる魅力を公開
  • 4
    モダンデザインの粋を見る「バウハウス・デッサウ展」
  • 5
    刀剣における日本の伝統美を映し出す職人技 日本橋三越本店で河内國平個展「光=映=日本刀」
  • 6
    ボンジュール、アン 【今週末見るべき映画】
  • 7
    今週末見るべき映画「幸せのありか」
  • 8
    江戸な縁起ものを暮らしに/其の二「江戸扇子/伊場仙」
  • 9
    ジャズ名盤講座第5回「ベツレヘム」ビギナー向け19選!マスター向け19選!
  • 10
    30年ぶりの大規模な「フランシス・ベーコン展」

Excite ism :

このエントリーをはてなブックマークに追加