今週末見るべき映画「ドラゴン・タトゥーの女」

2012年 2月 10日 19:12 Category : Art

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 スウェーデンのジャーナリスト、スティーグ・ラーソンの書いた小説「ミレニアム」三部作は、雄大なスケールのミステリーだ。日本でも、文庫本(ヘレンハルメ美穂 岩澤雅利訳・ハヤカワ文庫)で1から3まで、各上下巻、計6冊が刊行されている。

 ジャーナリストとして、人種差別や極右思想の反対運動に関わったキャリアのあるラーソンの「ミレニアム」三部作は、単なるミステリーではない。政治や経済の在りよう、弱者である女性への偏見や差別、ナチによるユダヤ排斥、裁判や後見人をめぐる法体制、旧ソ連からのスパイ問題絡みの国家機密など、スウェーデン社会の現実を垣間見せる。

 登場人物はことごとく個性豊かなのに、ほとんど、スーパーマン的な人物は登場せず、役人を始め、市井の人たちを等身大で描く。俗物まで含めて、まことに人臭く、リアルである。そこに、企業犯罪、失踪事件、女性虐待、連続殺人、暗号解読、スパイ事件、国家機密といった、ミステリーの定番が絡んでくる。

 これだけの原作である。映画にしない手はない。スウェーデンでは、三部作とも、すでに映画化された。映画は、原作通りとは言えないが、原作の骨格をうまく生かした作りで、十分に楽しめた。

 さっそく、アメリカでリメイクされたのが「ミレニアム」第一部の「ドラゴン・タトゥーの女」(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給)で、展開はほぼ原作通り。英語で話されるが、舞台は原作と同じストックホルムである。監督はデヴィッド・フィンチャー。

 今年のアカデミー賞は、11部門にノミネートされたマーティン・スコセッシ監督の「ヒューゴの不思議な発明」と、10部門にノミネートされたミシェル・アザナヴィシウス監督の「アーティスト」の一騎打ち、との下馬評である。両作とも映画の愛に満ちた傑作である。

 「ドラゴン・タトゥーの女」は、ルーニー・マーラが主演女優賞、その他、音響編集賞、録音賞、撮影賞、編集賞の5部門にノミネートを果たしている。
 2時間38分の長尺だが、そこはデヴィッド・フィンチャー監督。スピード感たっぷりの鮮やかな展開、演出で、一気に見せてしまう。

 ラーソンと同様、ジャーナリスト出身の作家トマス・ハリスの「ブラック・サンデー」、「羊たちの沈黙」、「ハンニバル」などの映画化も面白かったが、いったいに、原作の面白さに比べて、映画ではいまひとつという例は多い。本作は、原作の持つ規模の雄大さはともかく、映画としては一級品、上々の仕上がりである。

 2009年からのスウェーデンでの映画化では、三作とも、主人公のジャーナリスト、ミカエルにはマイケル・ニクヴィスト、ミカエルに協力する調査員で、天才ハッカーのリスベット役にノウミ・ラパスが扮した。このノウミ・ラパスが、原作のイメージをうまく体現して評判だが、リメイクでのルーニー・マーラもまた、いい。スカーレット・ヨハンソン、ナタリー・ポートマンらが望んだ役どころを射止めただけあって、見事な芝居を見せる。

 スウェーデンの富豪一族の少女ハリエットが失踪する。40年後、一族の実力者の依頼を受けて調査に乗り出すミカエルとリスベットは、失踪の真相と連続殺人事件との関わり、富豪一族のおぞましい過去を解き明かしていく。
 もちろん、複雑な構造、仕掛けを持つミステリーだが、離婚歴もあり、もはや中年のミカエルと、幼い頃から不幸な過去を持つリスベットの、切ないけれど心寄せ合う、美しいラブ・ストーリーでもある。

 見どころはたっぷり。リスベットは、後見人の弁護士にレイプされるが、そのリベンジを果たすシーンは痛快。サスペンスが盛り上がるのが、ハリエットの残した日記の一節が出てくるシーンだ。

 日記には「Magda-32016 Sara-32109・・・」(原作の表記)とある。ミカエルは娘のささいな一言から、旧約聖書のレビ記であることに気付く。原作では、「(マグダ) レビ記二十章十六節 ”女が獣に近づきこれと交わるならば、その女と獣を殺さなければならない。必ず死刑に処すべきである。その血は彼ら自身に降りかかるであろう”」・・・とある。旧約聖書のモーセ五書の第三書にあたるのがレビ記で、いずれも律法の刑罰を定めた部分だ。

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