イ・ブル展「この不条理な世界に抵抗したい」

2012年 3月 2日 00:00 Category : Art

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 1964年生まれ、韓国出身のイ・ブル。1990年代以降、ニューヨーク近代美術館やヴェネチア・ビエンナーレなど美術館での展覧会や国際展に参加し、国際的に評価されているアーティストだ。日本でもハラ・ミュージアム・アークに恒久設置作品が置かれるなど、何度か作品を発表している。森美術館で開かれている個展は、初期からこの展覧会のために制作した新作まで、約20年の彼女の活動を振り返るもの。彼女の全体像をつかむことができる、世界でも初めての大規模な回顧展になる。

 「この不条理な世界に抵抗したい」。イ・ブルがアーティストを目指したのはそんな思いからだった。1987年に民主化宣言がされるまでの韓国は軍事政権下にあり、彼女の家庭は思想犯として弾圧を受けていたという。

「毎週家に警察が来て、そのたびに本を隠したりしなければならない。人の集まるところには行けないし、街のはずれを点々と引っ越してばかりいた。子どもだったからどうしてなのかはよくわからなかったけれど、大きな不条理を感じたんです。そんな不条理な世界で生きるにはアーティストになるしかないと思った。まともな職には就けないと思ったし、アーティストはどの階級にも属さない職業だから」

イ・ブル氏

 彼女の作品にはそんな歴史と、それに翻弄された彼女の軌跡がさまざまな形で現れる。といっても、その闘いが直接現れるのではなくて、彼女が作るきらきら輝く壮大なオブジェに、人型の彫刻のなめらかな皮膚に、二重、三重にくるまれた隙間からちらちらとかいま見えてくるのだ。

 展覧会は4部構成になっている。「1:つかの間の存在」ではイ・ブルが活動を始めた1980年代後半以降、初期の作品を展示している。当時、イ・ブルは海中の謎の生物のようなソフト・スカルプチャーに全身を包んで街をさまようパフォーマンスを行っていた。生の魚にビーズなどで装飾を施し、ニューヨーク近代美術館で展示した作品は、次第に魚が腐って悪臭を放ったため、展示開始後数日で撤去された、といういわくつきの作品だ。

 「2:人間を超えて」は常人を超えた能力を持つ身体を夢見る人間の欲望をテーマにしたもの。動植物を思わせるさまざまなパーツを立体的にコラージュした「アマリリス」などが展示されている。高い天井からぶら下がる、超人的な身体のようなオブジェは「サイボーグ」シリーズ。ロボット・スーツに身を包んだ戦闘美少女アニメを連想させる。

「アニメに登場する可憐な身体を武器で覆ったサイボーグ少女は脇役であることが多い。超越したパワーを持っているのに、ジェンダーに縛られている。人間を超えた能力を持っていても、権力を持つ人/持たない人という構造から脱することができないのです」

「アマリリス」1999年

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