紙で再構築された事件現場 トーマス・デマンド展

2012年 6月 6日 09:00 Category : Art

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 今回の展示作品でも、深緑のカーテンがプリントされた壁で囲われた一室に展示された、大統領の執務室をモチーフにした作品「大統領」(2008年)は、許された人しか入ることができない場所でありながら、誰もが写真や映像で知っている大統領執務室のイメージの断片を繋ぎ合わせて構築したもの。報道で得ることのできる情報やイメージが、視聴者のイメージを型作り、その記憶を固定化するプロセスを象徴するような作品だ。また、キッチンウェアがシンクのなかに無造作に配置された作品のように、ありふれた日常を再現することでむしろ非日常を感じさせる作品もある。

 写真がジャーナリズムであった時代から、写真の真実性はつねに疑いの目でみられることと紙一重であった。デマンドが現実の世界からあるテーマを選びとり、写真作品として発表するとき、作家本人が望むと望まざるとに関わらず作品は批評性を帯びはじめる。そこでは写真はもはや真実を伝えるためだけのフォーマットではないことが明示される。

 デマンドがつくり出す被写体のサーフェスは近づいてよくみてみるとのっぺりとしていて、そのマテリアル性は実際にそこで起こった事件や事故の重大さに比べて極めて軽やかだ。

「森の空地」2003年

 それらは写真がもつ現実をありのままに写すことと、そこに写しとられた被写体との関係において、リアルであることは疑いようのない事実なのだが、デマンドの作品は、現実をありのままに写しとる写真独自のあり方によってむしろ、表層=模型と、深層=現実の関係を注意深く排除しているようにもみえる。

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