紙で再構築された事件現場 トーマス・デマンド展

2012年 6月 6日 09:00 Category : Art

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 2008年に起こった豪華客船パシフィック・サン号の事故を元に制作された「パシフィック・サン」(2012年)は、その事故から2年後、動画共有サイト「You Tube」に公開された船内に設置された監視カメラが捉えた映像にインスピレーションを受け制作された、世界の美術館で初公開となる映像作品だ。

 膨大な手間隙をかけてアニメーションと同じコマ撮りの手法で撮影されたデマンドの映像作品には、CG以上のリアリティや、実写ならではの背景の奥行や精度を感じる。だが同時にそこには、紙芝居や見世物のようなぎこちなさや、奇妙な薄気味の悪さも残る。それは、この世の中にあるものは、自然も含めほぼ全てが何かしらの意図のもと、人間の作為によって作られたものであることと、どこかで繋がっているようにもみえてくる。

 作品制作のために作家により新たに構築された現実の生き写しの世界では、そこで起こる破綻や崩壊、間違えさえもが、すべて作家によってコントロールされている。事件や事故現場が現場検証ののち、跡形もなく処理されるように、構築された模型は撮影後すみやかに解体される。

 デマンドは自身の彫刻作品を記録するために、写真を撮りはじめたといわれている。ここでは写真と彫刻(模型)の優先順位が逆転しているばかりか、再現された模型を撮影することで、写真が真実であるべき制約を軽々と超えている。そして事件や事故が人々の感情にひき起す驚きや嫌悪のようなものさえも、紙で事件現場を再構築することで、作品から意図的に排除し疑ってみせる。

「製図室」1996年

 20世紀を代表する哲学者の一人ヴィトゲンシュタインは、世界は事実の寄せ集めであって、物の寄せ集めではない、と言った。デマンドは、この世界を構成している事実の集積を物の集積により再構築することで、世界をより良く知るための異なる視点を提示しているのかもしれない。ぜひ実際に作品をご覧になり、それを確かめていただきたい。

トーマス・デマンド展
東京都現代美術館
開催中~2012年7月8日(日)まで。10時~18時、月曜休館。

取材/加藤孝司

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