今週末見るべき映画「セブン・デイズ・イン・ハバナ」

2012年8月3日 12:00

 小さいころから、キューバ音楽が好きである。セリア・クルスの歌、エルネスト・レクオナ率いるレクオナ・キューバン・ボーイズや、このバンドから独立したピアニスト、アルマンド・オレフィチェのハバナ・キューバン・ボーイズなどを聴いていた。もちろん、ペレス・プラードの一連のマンボなども。23分を超えるペレス・プラードの大作「ブードゥー組曲」は、いま聴いても、傑作である。

 キューバ音楽に新しい血を吹き込んだオマーラ・ポルトゥオンドも好きな歌手だ。ヴィム・ヴェンダース監督の映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」では、ほぼ同年輩の歌手や演奏者に混じって、素晴らしい歌を聴かせる。だから映画も、キューバや首都ハバナを舞台にした作品が好きである。最近では、オリバー・ストーン監督が、フィデルカストロの実像に迫ったドキュメントで、小欄でも掲載の「コマンダンテ」がある。古くは、1969年に黒木和雄が監督した「キューバの恋人」、1996年には村上龍が監督した「KYOKO」のラストシーンに、ハバナの町が出てくる。

 このほどの映画「セブン・デイズ・イン・ハバナ」(アルシネテラン配給)の舞台はタイトル通り、キューバのハバナ。月曜日から日曜日までの7日間、各曜日ずつ、7人の監督による10数分の短編アンソロジーである。それぞれ、趣向をこらし、現在のハバナの町や市井の人たちを活写する。いずれも個性豊かなショート・フィルムたち。ハバナの町に住む人たちは、物質的に恵まれているとは思えないが、どこか、心の豊かさ、人と人との温もり、触れ合いを感じて、好ましい。

 月曜日・「ユマ」の監督は、プエルトリコ生まれの俳優ベニチオ・デル・トロ。映画「チェ 28歳の革命」や「チェ 39歳 別れの手紙」で、チェ・ゲバラに扮した。日本の新藤兼人監督を敬愛するベニチオ・デル・トロの、この短編が監督第一作になる。アメリカから遊びに来た若者は、ハバナの人たちから、「ユマ」(外国人)と呼ばれる。知人の案内で家庭料理をご馳走になり、バーをはしごする。

 火曜日・「ジャム・セッション」の監督は、アルゼンチン生まれのパブロ・トラペロ。監督作は未見だが、アルゼンチン映画に新風を起こした才人。ハバナの映画祭に招待されたセルビアの映画監督エミール・クストリッツァ(本人)と、案内役のタクシー運転手との間に、奇跡のような出来事が起こる。

 水曜日・「セシリアの誘惑」の監督は、スペイン出身のフリオ・メデム。映画「アナとオットー」などで国際的な評価を受けた。ハバナのクラブで歌う女性セシリアと、マドリードから来た音楽プロデューサーの出会いに、セシリアの恋人が絡む。セシリアの選んだ道とは。

 木曜日・「初心者の日記」の監督は、イスラエル生まれのエリア・スレイマン。ドキュメントを撮り、脚本を書き、俳優もこなす。パレスチナ人の男(エリア・スレイマン本人)が、ハバナに来て、キューバの指導者にインタビューしようとする。

 金曜日・「儀式」の監督は、アルゼンチン生まれのギャスパー・ノエ。レイプ・シーンが話題になった「アレックス」や、「エンター・ザ・ボイド」で有名な監督だ。踊り狂う少女がいる。朝、ベッドにいる少女同士の姿を見た両親は、呪いを解くための儀式に娘を連れて行く。

 土曜日・「甘くて苦い」の監督は、ハバナ生まれのフアン・カルロス・タビオ。キューバの田舎町を舞台にした傑作「バスを待ちながら」や、トマス・グティエレス・アレアとの合作で「苺とチョコレート」を撮った。精神科医の中年女性と再婚相手が暮らすところに、荷物を取りに来たと、娘が戻ってくる。そして、事件が起こる。

 日曜日・「泉」の監督は、フランス生まれのローラン・カンテ。ローラン・カンテはキューバ好きで、たびたびキューバを訪れている。「パリ20区、僕たちのクラス」で、カンヌ映画祭のパルムドールを受賞している。大家の中年女性は、夢で見た女神を祭るために、店子を集めて祭壇を作ろうとする。

 キューバである。ハバナである。カストロの国である。監督たちの出自こそさまざまだが、これだけの映画作家である。この情報だけで、期待が膨らみ、見たくなる。事実、変化に富んだ、コクのある挿話が連続する。遊び心たっぷりのエンド・クレジットまで、期待通り、いや、それ以上、まさに至福の映画の時間である。どの挿話に共鳴するかは、個人の好みによるだろう。7本のうち、映画監督が俳優として出演した、火曜日・「ジャム・セッション」と、木曜日・「初心者の日記」、そして、日曜日・「泉」の3本が、ハバナに住む人たちの人間模様や雰囲気を、巧みに描いていたように思う。

 7編を彩る音楽が、どれもいい。ことに「ジャム・セッション」で、アレクサンダー・アブレウ扮するタクシーの運転手の吹くトランペットは秀逸。アレクサンダー・アブレウ本人がトランペットを吹く。曲は、切なく優しさに満ちた「レソネス・デ・ソブラ」だ。「初心者の日記」では、全編に、ソノーラ・マタンセーラの演奏で有名な「ベシート・デ・ココ」が使われている。これまた、哀しみと喜びが交錯し、憂いに満ちている音楽だ。まるで1週間、ハバナで過ごした気分を味わえる。貧しいけれど、人の心はあたたかく豊か。そしてふと、ここが、アメリカの傀儡政権から、キューバを革命に導いたカストロの作った国であることに、思いいたる。かつて、ヘミングウェイが愛した場所である。映画を見た後、キューバ音楽を聴きながら、ヘミングウェイが好んだラム酒ベースのフローズン・ダイキリやモヒートを呑むと、さぞかし旨いのでは。

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