物たちを見るというまなざしと体験。『物物』展

2012年 9月 12日 15:00 Category : Art

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 ここでこの美術館の主である猪熊弦一郎の生涯についてすこし振り返ってみたい。猪熊弦一郎は1902年高松生まれの芸術家。少年時代を高松や丸亀などですごし、30代でパリに留学、戦争をはさみ、ニューヨークやハワイで長く過ごした。若き日の具象的な画法から始まり、渡米後には鮮やかな色使いの抽象画、多彩なモチーフをたくみに使い分けながら、ときに子供のような自由なタッチで、数多くの作品を描いた。今でも上野駅中央コンコースにみることができる大壁画「自由」や、戦後40年続いた「小説新潮」の表紙絵、三越の包装紙などの仕事で広く知られる。晩年は日本に帰国し、1989年に1000点に及ぶ作品を故郷である丸亀市に寄贈。翌1991年に丸亀市に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館が開館、翌年には所有するすべての作品などを丸亀市に寄贈した。

 今回岡尾さんのセレクトとスタイリングで展示されるのは、美術館に収蔵された猪熊弦一郎のプライベートコレクションである、雑貨や家具などの日用品の数々。そのほとんどは猪熊弦一郎本人がつくったものではないが、どこかしら猪熊弦一郎が描くものと似かよったところがあるのは気のせいではないだろう。ガラス瓶やガラスの欠片、アメリカのキャンディ、石ころ、何のために使うのかわからないような道具や、どのように遊ぶのか今となってはわからないような玩具。だがこれらに共通するのは、そのすべてが物としての佇まいが美しく、ユーモラスで、その来歴や背景を考えてしまうようなものたちばかりだ。

 猪熊弦一郎はこれらを、骨董品やビンテージ品として、既成の価値観に基づいて蒐集したわけではなく、そのほとんどを個人的な楽しみや、そのものに出会ったときに感心したという記憶の断片を、のちのちたどるために、ときに買い、ときに路上から拾うなどして蒐集したものだという。それらは、記憶の断片をもとに作品を描くこともある画家という存在にとって、その作品のモチーフともなったかもしれないし、人知れずときにそれを眺めては、過ぎし日を感傷にふけったこともあったかもしれない。


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