今週末見るべき映画「最終目的地」

2012年 10月 5日 08:00 Category : Art

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 映画や、何らかの形で表現されたものには、自ずと品格の有無がある。上映時間1時間57分、揺れ動き、やがて別の感情が芽生えてくる人間心理を、品格を備えて描いた映画が「最終目的地」(ツイン配給、太秦配給協力)だ。
人は物理的にも、精神的にも、とりあえずの目的が存在する。やがてそれは、希望に満ちているか、諦めなのかどうかは定かではないが、いつの間にか、最終の目的となっていく。映画は、この「いつの間にか」の時間で揺れる男女の心の襞を、ていねいに掬い取る。誰かと出会う。さらにまた、誰かと出会う。それまでの、さまざまな人間関係に変化が生じる。恋愛などは、いい例だろう。これでよし、とするのも、また別の人生を選ぶのも、誰かと出会うからの結果に他ならない。

 舞台は南米のウルグアイ。なぜウルグアイなのか、どのような過去を持ち、どのような性格の人物なのかは、いくつかの、ちょっとしたセリフで、ほとんど説明される。まだ若いが、アメリカの大学で教員をしているオマー・ラザギは、自殺した作家ユルス・グントの伝記を書こうとしている。オマーは、グントの遺言執行者に手紙で許可を求めるが、拒否される。直接、会って、交渉しようと旅立ったところが、ウルグアイの田舎オチョ・リオスだ。遺言執行者は、ユルスの兄のアダム、妻だったキャロライン、愛人だったアーデンの3名。アーデンには、ユルスとの間に生まれた少女がいる。アダムには、パートナーである日本人の若者ピートが付き添っている。

 オマーが現れたことで、オチョ・リオスの住人たちは、徐々にではあるが、心が揺れ動き、変化していく。人のさまざまな感情が、まことにきめ細かく描かれる。さらに、オマーのある事故で、オマーの恋人のディアドラまでが、オチョ・リオスにやってくる。そして、それぞれが、それぞれの新しい人生を選ぶことになる。原作は、アメリカの作家ピーター・キャメロンの長編小説「最終目的地」(新潮社・岩本正恵訳)である。会話が多く、繊細な心理描写に溢れた小説を、ルース・プラワー・ジャブヴァーラが巧みに脚色。無駄なセリフが一切なく、原作のエッセンスを伝える、素晴らしい脚本だ。監督はジェームズ・アイヴォリー。E・M・フォースターの「眺めのいい部屋」やカズオ・イシグロの「日の名残り」など、優れた小説の持つ佇まいを損ねることなく、見事な映画を撮り続けている。

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