世界最大の現代美術展「ドクメンタ(13)」レポート

2012年 10月 11日 12:00 Category : Art

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 1955年からドイツのカッセルで開催され、今年で13回目を迎える現代美術の国際展「ドクメンタ(13)/dOCUMENTA(13) 」。会期は2012年6月9日(土)~9月16日(日)の100日間のイベントは、大盛況のうちに終了した。カッセルの町の広範囲に渡って、町全体が作品化した100日間。もちろんすべての作品を紹介することはできないが、一部作品から全体の雰囲気を感じ取ってもらえたらと思う。

 カッセルはドイツのちょうど真ん中くらいの場所、ヘッセン州に位置する都市。フランクフルトから新幹線ICEで約1時間半。グリム兄弟が30年以上暮らし、図書館で働きながら民話収集に勤しんだ場所としても知られている。ドクメンタは、第二次大戦でナチス党のヒトラーによって退廃芸術と言われた現代美術を復興しようというもくろみで、カッセル芸術アカデミーのアルノルド・ボーデ(1900-1977)が発起人となり1955年から始まった芸術祭だ。毎回新しいアーティスティック・ディレクターを迎え、斬新なテーマで芸術・文化・街・歴史について一石を投じる試みがなされている。

 ドクメンタ(13)のアーティスティック・ディレクターは、ローマとカッセル、ニューヨークを拠点に活動するキャロライン・クリストフ=バカルギエフ女史(Carolyn Christov-Bakargiev 1957-)。インディペンデント・キュレーターとして世界各地の展覧会に携わった後、MoMAのPS1というNPOでシニア・キュレーターを務め、トリノのカステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館のチーフ・キュレーターを経て、2009年から本展の準備に携わった。

 「テーマは特にない」と女史は開催前の記者会見で語ったそうが、付け加えるように、ドクメンタの歴史的文脈に基づいて展覧会が組み立てられている点も述べた。それは、単なるお祭り騒ぎ的なゴージャスなアートを並べるのではなく、「戦争」「崩壊」「復興」「再生」といった世界がかかえる負の歴史と、現代社会が抱える問題を踏まえ、未来に向かう私たちに示唆を与える。また、「アートとは何か、誰のものか」という問題にメッセージを投げ掛ける作品──それは、創作の根源にあるような作品であったり、美術史のアンチテーゼとなる作品であったり、美術家ではない研究者や活動家たちの「知」の表現であったり──が多く見受けられ、幅広く複数の視点から、現代ー未来について、おおいにに好奇心をくすぐられ、考えさせられ、対話を生む展覧会だったのではないかと思う。

 「場所」も今年のドクメンタを語る上で特筆すべき点だろう。メインの会場となる、カッセル、アフガニスタンのカブール、エジプトのアレクサンドリア、カナダのバンフーの4カ国で同時に展示が行われた。それらの複数の場所で展示される作品は、アーティストや思想家たちが置かれた状況に合わせ、「ステージ上(on stage)」「包囲下にある(under siege)」「希望をもった状況(in a state of hope)」「撤退、退却する(on retreat)」という4つのシーンとなって作品に表れる。これら4つの場所は、ドクメンタのトポロジーを形成する構成要素となり、それぞれの作品は場所と時間を超えて関連していくのだ。前置きが長くなったが、カッセルの展示でいくつか印象に残った作品を紹介したい。

【カッセル中央駅】

Janet Cardiff & George Bures Miller "Alter Bahnhof Video Walk"(2012)

 カッセル中央駅(Kassel Hbf)。ドクメンタを訪れる人たちのゲートとなる駅だ。この駅をめぐる体験自体が作品となっている。ジャネット・カーディフ(Janet Cardiff 1957-)&ジョージ・ビュレス・ミラー(George Bures Miller 1960-)の「Alter Bahnhof Video Walk(2012)」である。カナダ出身で現在はカナダとベルリンを拠点に世界中で活躍している二人。彼らは「音」を効果的に用いて、日常空間を変容させるアーティストである。日本では、越後妻有に設置されている「ストーム・ハウス」があり(元診療所であった一軒の家の中に入ると、吹きすさぶ風と滴り落ちる雨、やがて嵐がやってくるという体験が味わえる)、作品を体験した経験がある人もいるだろう。今回の作品の舞台となるのは、カッセル中央駅である。観客はiPod touchを支給され、イヤホンを付けると、ビデオストーリーが始まる「physical cinema」という体験型の作品だ。映像の中にはカッセル駅が表示されており、女性の声のガイドに従って駅の中を歩いていく。映像では、カッセル駅の3番線ホームから強制収容所行きの電車が発車されたというユダヤ人迫害の歴史や、作家自身が見た夢、作家が駅を撮影している状況などが語られ、映像を見ているうちにその物語の中に没入してしまう。Youtubeに一部映像がアップされていた。

 映像を見ると体験が思い出されはするが、実際に体験するのとは雲泥の差である。イヤホンから聞こえてくる立体的な音響と目の前の映像、そして実際に空間に身を置いて歩くことによって、自分がいまいる場所が現実なのか非現実なのか、いつの時代なのかがよくわからなくなる。ユーフォニウムの美しい音色にハーメルンの笛吹のごとくついていくと犬に吠えられて驚いたらそれは映像の出来事だったり、新聞売りのお兄さんに呼び止められ手を振られたと慌てたらそれは現実の空間だったり、歩いてくる人にぶつかりそうになり避けたら映像だったり……。26分間の不思議な体験であった。作品が終わってしばらくしても、映像と現実の区別ができず、その後カッセル中央駅に行くたびにその感覚は思い出された。作品を体験している人々も作品の一部になるような演出も施されており、実際の作品はiPod touchの中に集約されるものなのだが、カッセル中央駅全体が作品と化していた。本作品は、カッセル市により購入され展覧会期後も常設で体験できるようになる予定だという。

 その他中央駅では、ウィリアム・ケントリッジ(William Kentridge 1955-)による映像作品"The Refusal of Time"(2012)、スーザン・フィリップス(Susan Philipz 1965-)によるサウンドインスタレーション“Klangtest / Sound test”(2011)が印象深かった。

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