今週末見るべき映画「ミステリーズ 運命のリスボン」

2012年 10月 12日 12:00 Category : Art

このエントリーをはてなブックマークに追加

 今年のフランス映画祭で見た「ミステリーズ 運命のリスボン」(アルシネテラン配給)は、ほぼ4時間半の長尺、気宇壮大なドラマだ。多くのエピソードが積み重ねられる。ひとつひとつの話は、男と女の葛藤や親子の相克、人間の欲望や、怨みや嫉妬による復讐などの人間関係が絡んだ、いたってシンプルなものである。いわば、大河ドラマの断片を、あちこちに散りばめたかのよう。何人かの人物が、自らの出生の秘密を語り、他人の出生の秘密を語る。語ることで、過去の出来事が、フラッシュバックされていく。

 舞台は、19世紀前半のポルトガルのリスボン。修道院に暮らす少年と、何かと少年を庇護する神父がいる。そこに、老いた貴族たち、不運な女性たち、ブラジルから来たという成金、数奇な過去を持つ神父たちの人生が、幾重にも交錯する。舞台はフランスやイタリアに飛び、またポルトガルに。人物たちは、あちこちで出会い、愛し、憎み、生きる。それは、自分探しの旅でもあり、愛憎入り交じる家族の血脈の話でもある。没落する貴族に成り代わる新興勢力の歴史が、背景となる。監督のラウル・ルイスは、リアリズムを根底にしながらも、超現実的なイメージを多用する。難解と思われるのは、本作の場合、凝りに凝った叙述法にある。過去と現在が行き来し、語り手がリレーのように変わる。フォーカスの緩い、歪んだような映像が現れる。たぶん、夢なのかと思わせる表現も用意されている。また、これから起こる出来事を暗示するかのように、紙芝居のような動画が何度も挿入される。じっと、見続けていくと、やがて、なにかいわく言いがたい力に引かれているようになる。映像から、ふわっとした浮遊感のような感覚もおぼえる。これも、映画を見る醍醐味の一つかも知れない。

 昨年、パリでこの映画を見た友人の話では、劇場は超満員で、観客は、長尺にもかかわらず、ぐいぐいと映画に引き込まれいるようだった、という。2010年、オリヴィエ・アサイヤス監督の「カルロス」、グザヴィエ・ボーヴォア監督の「神々と男たち」、ベルトラン・タヴェルニエ監督の「モンパンシェ公爵夫人」、ロマン・ポランスキー監督の「ゴースト・ライター」、マチュー・アマルリック監督の「さすらいの女神(ディーバ)たち」などの秀作を押さえて、ルイ・デリュック賞の作品賞を受けた。先年に亡くなったラウル・ルイスの、遺作のひとつ前の映画になる。ラウル・ルイス作品の日本での劇場公開は、長編3本とオムニバス1本のわずか4本。映画祭や特集上映では、他の作品もいくつかは上映されているが、公開作が少ないのは、興行上の理由によるものと思われる。ちなみに、この9月、ラウル・ルイスの遺作「向かいにある夜」を、アンスティチュ・フランセ東京のラウル・ルイス特集上映で見たが、これまた、どれが現実なのか、空想なのか、その境目が判然としない映画だった。死を直前に控えた男が、幼ない頃を回想する話なのだが、英語字幕のため、よく分からなかった。

 ラウル・ルイスは南米のチリ生まれ。1974年、チリにクーデターが起こる。アメリカの支援するピノチェット軍事独裁政権が成立、ラウル・ルイスはフランスに亡命する。以降、フランス圏を中心に多くの映画を撮り続けた。日本で公開された長編は、「ロック公国 ジャゾン3世」、「見出された時ー『失われた時を求めて』よりー」、「クリムト」の3本だから、寡作かと思うが、実は100作以上も撮っている多作な作家である。本作に出演の俳優は、ポルトガルやフランスの、日本ではあまり知られていない人たちだが、俳優のイメージによる先入観のない分、ドラマをよりリアルに見ることが出来る。後半、ほんのチョイ役だが、多くのラウル・ルイス作品に出ているメルヴィル・プポーが、フランス軍の大佐として、顔を出す。

 原作は、日本ではまだ翻訳されていないが、ポルトガルのバルザックと言われているカミロ・カステロ・ブランコの自伝的色彩の濃い長編小説。めくるめくような映画の時間が流れる。上映時間はちと長いが、人間の業ともいえる愛憎に満ちたドラマだ。じっくり、ゆったり、見てほしい。この公開を機に、もっと、過去のラウル・ルイス作品が、劇場で一般公開されればいいのだが。


Related article

  • 今週末見るべき映画「シリア・モナムール」
    今週末見るべき映画「シリア・モナムール」
  • 今週末見るべき映画「預言者」
    今週末見るべき映画「預言者」
  • "世界を変える"第15回東京フィルメックス 上映作品発表
  • 今週末見るべき映画Part 2 「ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~」
    今週末見るべき映画Part 2 「ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~」
  • 今週末見るべき映画「バツイチは恋のはじまり」
    今週末見るべき映画「バツイチは恋のはじまり」
  • 今週末見るべき映画「ハンナ・アーレント」
    今週末見るべき映画「ハンナ・アーレント」

Prev & Next

Ranking

  • 1
    “マンガ”をテーマに『Tokyo’s Tokyo』2号店
  • 2
    スキンケアブランド「イソップ」の路面店がオープン
  • 3
    オービカ モッツァレラバーで解禁直後のノヴェッロを
  • 4
    ニューヨークで「BMW Guggenheim Lab」はじまる
  • 5
    恵比寿映像祭レポート(2) 都築響一のトンデモ作品
  • 6
    メルボルンのレストラン/オーストラリアを旅する(1)
  • 7
    フォトギャラリー:デザインタイドトーキョー エクステンション
  • 8
    オルタナティブ・ジャーニーな世界観に写真の「今」をみる。 ライアン・マッギンレー展
  • 9
    深澤直人のデザインワークショップ展「WITHOUT THOUGHT」
  • 10
    今週末見るべき映画「華麗なるアリバイ」

Excite ism :

このエントリーをはてなブックマークに追加