今週末見るべき映画「最初の人間」

2012年 12月 14日 12:00 Category : Art

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 岩波ホールで公開される映画は、良心的な佳作揃い。その作品選定に、無条件で鑑賞するファンも多い。今年も、昨年暮れからの「風にそよぐ草」(小欄でも紹介)以降、「汽車はふたたび故郷へ」、「オレンジと太陽」、「キリマンジャロの雪」、「ジョルダーノ家の人々」、「イラン式料理本」、「菖蒲」と公開された。ことに、映画監督志望の若者が、いかなる権力にも屈せず、従わず、ひたすら自由を希求する「汽車はふたたび故郷へ」(オタール・イオセリアーニ監督)は、映画への愛に満ちた傑作だったと思う。

 岩波ホールの今年最後の公開作品が、イタリア、フランス、アルジェリアの合作になる「最初の人間」(ザジフィルムズ配給)だ。原作は、「異邦人」で有名なアルベール・カミュの書いた最後の小説で、たまたま来年がカミュ生誕100年になる。1960年、カミュは自動車事故で亡くなる。未完のままだった小説「最初の人間」は、書かれて30数年後、やっと陽の目を見る。日本では、1996年に翻訳され、このほど、映画の公開に合わせて、文庫化された。

 もともと、カミュの熱心な読者ではない。「異邦人」や「ペスト」、「反抗的人間」などがあまりにも有名だが、成功した作家が幼い頃を振り返り、若くして死んだ父親を想い、異なる民族の共存、自由を願った「最初の人間」が、いちばん好きな作品ではないかな、という程度である。ここには、人間性とは何か、が書かれていると思う。フランスとアルジェリアの歴史を下敷きにして、争い続ける人間の愚かさを憎み、同じ人間同士、なんとか共存できないかと願う作家の良心が満ちていると思う。

 小説「最初の人間」は、文庫本でも340ページ、補遺や注を合わせて428ページもある。小説で描かれたすべてを映画に盛り込んでいるわけではない。原作のエッセンスを生かしながら、順番を入れ替えたり、補遺の中に出てくる、主人公のジャック・コルムリイ(原作表記)が、小学校の先生との間で交わした手紙の一節を生かしたり、巧みにダイジェストした脚本である。アルジェリアの独立をめぐって、激しい紛争のさなか、フランスで成功した作家ジャック・コルムリが、講演を依頼され、故郷のアルジェリアを訪ねる。老いた母に、若くして死んだ父親のことを聞き、ジャックは、幼かった日々を回想する。


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