今週末見るべき映画「シャドー・ダンサー」

2013年 3月 14日 15:00 Category : Art

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 戦前では、ジョン・フォード監督の「男の敵」、90年代以降では、フィリップ・ノイス監督の「パトリオット・ゲーム」、ニール・ジョーダン監督の「クライング・ゲーム」と「マイケル・コリンズ」、ジム・シェリダン監督の「父の祈りを」、ハリソン・フォードとブラッド・ピット主演、アラン・J・パクラ監督の「デビル」、最近では、2006年のケン・ローチ監督の「麦の穂をゆらす風」などなど、アイルランドの独立や、北アイルランド紛争をめぐっての優れた映画は、数多く作られている。

 アイルランドの北部、アルスター地方は、プロテスタント系の住民が多く住み、カトリックは少数派である。1921年、アイルランドはイギリスから独立する。アルスターの多数派プロテスタント系は、イギリス統治の継続を願うが、少数派のカトリックは、アイルランド共和国への統合を望み、どちらも主張を譲らない。以降、爆破テロを起こし、過激派と言われているカトリックのIRA(アイルランド共和軍)と、プロテスタント過激派に分かれた紛争は、兄弟や親戚までもが敵と味方に分断され、悲惨ともいえる歴史を重ねてきた。相次ぐテロ事件に、イギリス政府はIRAと和平交渉を進め、1998年4月には、和平合意が成立するが、IRA過激派は、さらに大きな爆破事件を起こす。やっと、昨年の6月、エリザベス女王がベルファストを訪問、IRAの元幹部マーティン・マクギネスと和平を約したばかり。

 このほど、1920年代以降の北アイルランド紛争の歴史を描いた優れた映画の系譜にまた、もう一作、「シャドー・ダンサー」(コムストック・グループ配給)が加わる。1990年代、北アイルランドのベルファストに住む3人の兄妹は、IRAのメンバーである。妹のコレット・マグビーがイギリス側に捕らえられ、身分保証と引き替えに、やむなく内部情報の通報者、つまりスパイになる。MI5(イギリス諜報保安部)の捜査官マックは、情報提供の見返りに、自らの命を賭けてコレットを守ると宣言する。そのような時期にも、爆破テロが相次ぎ、裏側では秘かに和平への道が模索されるが、IRAの過激派は、応じない。それぞれの組織内に、不信や疑惑が入り交じる。やがて、組織の抱えるおぞましさに翻弄される人間の哀しみが浮かび上がる。

 タイトルの「シャドー・ダンサー」とは、スパイとなったコレットのコードネームだが、コレット以外にもう一人の「シャドー・ダンサー」の存在が露わになりかかる。原作もそうだが、映画のタッチは静謐そのもの。派手な銃撃戦や爆破シーンはない。内部情報を流すなど、スパイ行為をせざるを得ない状況に置かれた人間の哀しみが、サスペンスをはらみながら、波紋のように広がっていく。史実に基づいた原作は、もう10年ほど前に読んだトム・ブラッドビーのデビュー作「哀しみの密告者」(扶桑社・野口百合子訳)で、原題が「シャドー・ダンサー」である。時代背景や、一部の人物配置は原作通りだが、映画は、まったく異なる運びの悲劇を提出する。原作者のトム・ブラッドリーが、史実に基づいた自らの原作を元に脚本を執筆、ジャーナリストとしての豊富な経験が、原作と映画脚本に実を結ぶ。


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