今週末見るべき映画「しわ」

2013年 6月 21日 12:00 Category : Art

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 介護施設に、エミリオという老人が、息子夫婦に連れられてやってくる。認知症の症状が現れるようになったエミリオは、家族に迷惑がかからないようにと判断したのだろう。

 まだ認知症ではないのに、身よりがないという理由で入所している初老の男ミゲルは、いろんな理由をつけて、患者から、金をせしめている。

 そのほか、たまに訪ねてくる孫のために、食事に出されるバターやジャム、ティー・バッグなどを貯めこんでいる老婦人や、他人の言葉を繰り返すだけの男もいる。重症で、身の回りのことができない老人は、完全に呆けた訳ではなく、妻の囁くある言葉を聞くと、微笑む。妻は健常者なのに、夫の世話で、ともに施設で暮らしている。家族に、もう良くなったとの電話をかけようと、毎日、施設をうろうろしたり、オリエント急行に乗り、イスタンブールに向かっている妄想にとりつかれている老婦人もいる。耳が遠いのを幸いに、リハビリ運動をコーチする女性介護士に触れたがる男もいる。禁止されている犬を飼っているが、物忘れがひどく、犬の面倒が見切れない老人もいる。宇宙人の存在を信じて、ひとりではいられない老婦人もいる。

 気弱なエミリオと、現実的で狡猾なミゲルは、一見、対立しているようだが、やがてそれぞれに別の感情が芽生えてくる。

映画「しわ」

 認知症を免れても、誰しもが老い、衰える。逆らえない現実だ。若いうちは、自らの老後をイメージできないかも知れないが、やがて訪れる老いに、心の準備は必要だろう。映画は、生きること、老いることについて、ある状況を示すだけだが、語りかける意味は多く、深い。

 エミリオの心情を代弁するかのような音楽が、控えめながら、いい。作曲は、ナニ・ガルシア。自身の弾くピアノが、憂いを湛えて印象に残る。

 多くの傑作アニメーションを作っている三鷹の森ジブリ美術館の配給になるが、製作だけでなく、DVDライブラリーでもまた、いい仕事を続けている。一般公開後に、今、DVDで見ることの出来る作品に、ジョージ・オーウェル原作の「動物農場」、シルヴァン・ショメ監督の「ベルヴィル・ランデブー」などがある。いずれも、アニメーション映画の傑作と思う。

 本作は、明確な答えを提示しない。見る人それぞれが、自分だけの答えを見いだすしかない。アニメーション映画「しわ」は、すでに老いた人、これから老いる人、つまりは、この世に生を受けた、すべての人に捧げられる。

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