<領域>を行き来する映像空間—さわひらき個展 Under the Box, Beyond the Bounds

2014年 3月 6日 12:00 Category : Art

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こんな夢を見た。腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。

これは、夏目漱石の短編集『夢十夜』の冒頭(「第一夜」)に登場する一節である。実際に漱石が見た夢がもとになったというこの短編小説は、ほとんどが「こんな夢を見た」という書き出しにはじまり、きわめて幻想的な10の世界が綴られている。それぞれには漱石が生きた現代(明治)から、鎌倉、江戸、そして100年後と多様な時間軸を行き交い、現実にはありえない不思議な現象が巻き起こる。

この本をはじめて読んだとき、まるで自分の夢の中にトリップしたかのような、どこか懐かしい感触があったのを覚えている。何をもってそう感じたかは言葉にしがたいのだが、「夢」という不確かなものがもたらす空間や時間軸、そして他者との奇妙な(それでいて、夢の中ではまかりとおってしまう)接触の記憶が、漱石が綴る言葉のイメージと共によみがえってきたのだ。

Courtesy of the artist and Ota Fine Arts 《Souvenir Ⅳ》2012

現在、東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている映像作家さわひらきの個展 Under the Box, Beyond the Bounds では、冒頭で引用した『夢十夜』と似たような感触があった。「夢心地」という言葉がふさわしいかはわからないが、さわが生み出す独自の映像世界には、心地良く体内にしのびこんでくる一種の恍惚感がある。

夢が脳内にある意識や記憶の断片をツギハギして生まれるように、さわひらきという作家から生まれたイメージと、それを見る「私」の意識と記憶、そしてどこか知らない誰かの記憶が交わり、透明な意識の湖に吸い込まれていく。その気持ちよさたるや、できることならギャラリーのなかで布団にくるまれて眠ってしまいたい気分だった。

初期の頃から「領域(テリトリー)」への関心をテーマとするさわは、映像というメディアを通して、私的な空間と個人の記憶、物理的空間とイメージ、また宇宙に思いをはせるような遠くの世界とも「接続」するルートを導いてくれる。

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