今週末見るべき映画「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」

2014年 5月 29日 08:00 Category : Art

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「グリニッチ・ヴィレッジにフォークが響いていた頃」(早川書房・真崎義博訳)という本を読んだ。1960年代、ニューヨークのフォーク音楽シーンの中心人物のひとり、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録である。これが、たまらなく懐かしく、面白い。

ロンクは2002年にガンで亡くなるが、膨大なロンクの記憶や、残した記録、インタビューを、イライジャ・ウォルドが、ロンクの一人称で語る体裁で纏めあげた本だ。ロンクは、アメリカのブルースや、古いジャズに魅せられ、自ら、伝統的なフォーク音楽を発掘し、アレンジし、ギターを弾き、歌う。ロンクの多彩な知識と音楽から、ボブ・ディランをはじめ、多くの歌手たちが、多大の影響を受けた。ロンクと、ピート・シーガーを師と仰ぐディランとの出会いや、トラディショナルの名曲「朝日のあたる家」をめぐってのロンクとディランの会話やエピソードから、ロンクの人となり、ロンクとディランの関係が浮かびあがる。また、第14章の「ニュー・ソング・レヴォルーション」と、第15章の「バビロンの衰退」では、ロンクの過ごした60年代のアメリカの音楽シーンの変遷が、コンパクトに綴られている。

最近では、「ノー・カントリー」や「バーン・アフター・リーディング」、「シリアスマン」(いずれもイズムで紹介)を撮ったコーエン兄弟の新作が、このロンクの回想録に基づいた映画「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(ロングライド配給)だ。昨年のカンヌ国際映画祭で、グランプリを受賞、このほどの公開となった。さすが、コーエン兄弟。史実とロンクの回想録を基に、全く新しいキャラクター、ドラマを創造する。かつて、ブルースやゴスペル、ブルーグラスへのオマージュでもあった「オー!ブラザー」を撮ったコーエン兄弟である。60年代にアメリカを席巻したフォーク音楽にもまた、熱い思いを込める。

映画は、うだつの上がらないフォーク歌手、ルーウィンの、不運続きのまったく冴えない、一週間ほどの日々を描く。ルーウィンは、友人宅に居候を続ける。コーヒーハウスで歌っても、さほどの評判にはならない。歌手仲間の女性を妊娠させてしまう。レコーディングの話が来るが、自らの信念を貫き、迎合しない。大物プロデューサーとのオーディションでも、金目当てのグループ・デビューは拒否する。売れようと思えば、売れるだけの才能がありながら、あえて売れようと動かない。食いつなごうとしての船員免許もあるが、免許証を紛失する。相変わらず、コーヒーハウスで唄うしかない。時代は、どんどん、移り変わっていく。


コメディといえばコメディ。笑えるシーンも多々。悲劇といえば悲劇。いつの時代、どの社会にも、それなりの才能はあっても、社会に適合できない、成功しない人間は、必ず、いる。コーエン兄弟は、そのような人物にも、温かく、柔らかな眼差しを向ける。別に、時代のせいにはしない。たとえ恵まれた状況ではなくても、人間としての誇りがある。金や名声と引き換えに、誇りや尊厳を棄てることは簡単だし、そういう人間は多いだろう。ルーウィンは、いわゆるダメ人間のように描いてはいるが、最後の最後まで、誇りを失わない。信念を曲げない。そこに、打たれる。震える。

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