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今週末見るべき映画「グレート・ビューティー/追憶のローマ」

2014年 8月 22日 08:00 Category : Art

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今年のアカデミー賞で、外国語映画賞を受賞した「グレート・ビューティー/追憶のローマ」(RESPECT(レスぺ)、トランスフォーマー配給)は、ローマが舞台。全編、あちこちの名所旧跡が、凝りに凝ったアングルの美しい映像で出てくる。冒頭、セリーヌの「夜の果てへの旅」の書き出しが引用される。「旅は有益だ。想像力を誘う。あとは幻滅と疲労のみ。…すべて見せかけ、つまり小説、作り話。辞書にもそうある…」。

ベストセラーの小説「人間装置」を一作、書いただけの老ジャーナリスト、ジェップ・ガンバルデッラが、真っ向から、自らの老いを見つめる。40年ほど前に小説を書いただけで、筆を折る。以降、セレブたちのインタビュー記事などを雑誌に書いているジェップは、ローマのセレブが集まる場では、ちょっとした著名人。夜な夜な、セレブの集まるパーティに出入りし、パフォーマンスに見入る日々を過ごしている。喧噪、倦怠が支配する無駄な時間を経て、ジェップは、もう、65歳になった。


なんだか、フェデリコ・フェリーニ監督の「甘い生活」、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「夜」などを想起し、事実、似た結構ではあるが、そこはパオロ・ソレンティーノ監督。独自の美意識で、ソレンティーノ独自の、騒音と静寂、倦怠と退廃に満ちたローマを描ききる。「フェリーニのローマ」という傑作ドキュメンタリー映画があったが、これはいわば、「ソレンティーノのローマ」である。また、一度、筆を折った主人公ジェップは、再び、書こうとする。その意味では、「ソレンティーノの失われた時を求めて」でもある。

ナレーションが入る。「65歳を迎えて数日後、確固たる事実を発見した。もはや望まぬ行為に費やす時間はないのだ」と。ジェップは、「フローベールは無を描こうとした」と言い、やがて、「無を描けなかった」と断定する。

主人公ジェップは、フローベール、プルースト、セリーヌを意識しているはず。創作への炎は消えていない。

ジェップは、連日の乱痴気騒ぎのパーティ、批判と中傷に溢れたサロンでの論争、初恋の女性の死、娘ほども年の違う女性や老シスターとの出会いを経る。そしてジェップは、偉大なローマの偉大な美に、たどり着く。

党関係の出版社から多くの本を出している女性作家を、ジェップは罵倒する。古くからの友人の娘との出会いが、ひとときの安寧の時間になる。ローマは、静寂と喧噪を繰り返し、倦怠が支配する。別れがあり、出会いがある。人は生まれ、行き交い、死んでいくが、テヴェレ川は、ローマの町に静かに流れている。


ジェップに扮するのはトニ・セルヴィッロ。パオロ・ソレンティーノ監督とは何度もコンビを組んだ、イタリアの名優。何着ものスーツを取り替える。シャツとの色合いが絶妙。ダサい物言いだが、「ちょいワルおやじ」という言い方がある。自ら称したのか、人から言われたのかよく分からないが、そんな初老の編集者が日本にもいたと思うが、格が違う。映画のなかで、半ば自虐的に、「イタリアは洋服とピザだけだ」といったセリフが出てくるが、トニ・セルヴィッロの、スーツの見事な着こなしに目を奪われる。ジェップの友人で、戯曲作家ロマーノ役のカルロ・ヴェルドーネもまた、見事なスーツを着こなし、俗物ぶりを力演する。


パオロ・ソレンティーノの映像が、あらゆる表情のローマを映す。そこに、主人公ジェップの心の旅が重なる。倦怠の美と、倦怠からの脱却の美が重なる。このような映画は、好きだなあ。

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