今週末見るべき映画「NO」

2014年 8月 29日 08:00 Category : Art

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2012年の第25回東京国際映画祭のコンペティション部門で上映された「NO」(マジックアワー配給)が、やっと公開される。「ハンナ・アーレント」(イズムでも紹介)と並んで、一昨年の東京国際映画祭で評判の作品であった。グランプリは、フランスのロレーヌ・レヴィ監督の「もうひとりの息子」で、これも優れた作品だったが、もし、審査員の立場だったら、文句なしにこの「NO」をグランプリに推しただろう。


1988年、チリのピノチェト独裁政権の是非をめぐって国民投票が実施される。メディアまでも、ほぼ手中におさめている政権だが、国際的な批判をかわすかのように、国民投票までの27日間、深夜のテレビで、政権にノーを唱える反対派のキャンペーンを流すことになる。もちろん、政権を支持する賛成派にも、同様の機会が与えられる。反対派に、レネという、若いけれど腕利きの広告ディレクターが協力することになる。もともと、勝ち目のない、形式だけの国民投票だが、レネは新しい感覚で、楽しい、明るいキャンペーン番組を作り、これが評判となっていく。

1973年、チリのアジェンデ政権を転覆させたピノチェトは、アメリカの支援で大統領になる。いかなる政権交代であったかは、1976年に公開されたエルヴィオ・ソトー監督の傑作「サンチャゴに雨が降る」や、1982年のコスタ・ガヴラス監督の「ミッシング」などの映画で、詳しく描かれている。

軍事独裁である。虐殺され、犠牲となった人は多い。世界じゅうから、批判が出る。映画の舞台は、ピノチェト政権が発足して15年後の1988年、チリのサンチャゴ。反対派、賛成派ともに、1日わずか15分のキャンペーン映像合戦が展開する。レネは、次々と、新鮮な映像を送り出していく。楽観していた政権側は、しだいに形勢の不利を感じる。当然、政権側はレネたちを監視、露骨ないやがらせが始まる。ラスト近く、おお、と驚く、ノー派のキャンペーン映像が出る。お楽しみに。

映画は、格別、レネを英雄視していない。レネは、変化しつつある民衆の思いを、広告で誘導しようとする現実的な考えの持ち主だ。政治的に熱狂するわけではなく、常に醒めていて、まるで傍観者のような視線で、ことの成り行きにつき合っていく。ただ、広告で人を動かそうとする信念は揺るがない。国民投票が控えていても、政権派の上司と、ちゃんと次の仕事を準備しているほどだ。


レネを演じたのは、ガエル・ガルシア・ベルナル。「アモーレス・ペロス」、「天国の口、終りの楽園」、「モーターサイクル・ダイアリーズ」などに主演。深く考え込む表情が、少ないセリフを雄弁にする。一作ごとに演技に深みが加わる。映画のための映像と記録映像をうまく編集し、鋭く冴えのある演出をみせたのは、パブロ・ラライン。「グロリアの青春」(ガルボで紹介)のプロデューサーでもある。

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