今週末見るべき映画「郊遊<ピクニック>」

2014年 9月 5日 08:00 Category : Art

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昨年の東京フィルメックスの特別招待作品として、クロージング上映され、大きな反響を呼んだ「郊遊<ピクニック>」(ムヴィオラ配給)は、台湾のツァイ・ミンリャン監督の引退作品という。ストーリーらしきものは存在するが、明確ではない。

幼い兄妹に、父親らしき男と、母親らしき女がいる。母親らしき女性は、3人、登場するが、その関係ははっきりとは提示されない。貧しい家族のようである。父親らしき男は、日雇いのようなサンドイッチマン。マンションの分譲の看板を持って、雨風のなかに立っている。子供たちは、スーパーらしき場所で、試飲し、試食する。母親らしき女は、髪を漉き、父親から子供ふたりを連れ戻し、父親らしき男に別れを告げる。映画に、具体的な説明はいっさい、ない。貧困の家族の話だからといって、現代資本主義のありように非を唱えているわけではない。さりとて、社会はかくあるべきといった政治的なメッセージも込められていない。

映像は、だから、ツァイ・ミンリャンの詩のようであり、いくつかのエピソードを綴ることで、全編、観客に解釈を委ねることになる。説明過剰、俳優が叫べば優れた演技、と錯覚しているような映画とは、一線を画している。少ないセリフだし、ストーリー・ラインを追うことは無意味、いわゆるネタバレは、存在しない。


英語のタイトルは「ストレイ・ドッグス」。「さまよえる犬たち」だ。ふつう、さまようのは小羊だが、映画では、野良犬が登場する。まるで、人間が犬のように、犬が人間のように、さまよう。雨が降り、風が吹く。夜も昼も、街角でも、スーパーでも、原っぱでも、廃墟でも、6人の登場人物は、ただただ、さまよう。

晩年のT・S・エリオットの詩「灰の水曜日」の一節を想起する。「わたしは、時はいつでも時であり、場所はいつでも場所であり、ただそれだけだと知っているから…」(岩崎宗治・訳)。「ゴドーを待ちながら」や「勝負の終わり」、「しあわせな日々」といった、サミュエル・ベケットの戯曲の世界が彷彿とする。およそ、今までの映画表現に「ノン」を発しているかのような、ツァイ・ミャンリャンの映画文法である。

据えられたカメラの極端な長回しが、見るものの想像力を、掻き立てる。映像から、何を想像するかは、観客のひとりひとりで異なると思う。

万感の思いが籠もっているのだろう、父親らしい男が、看板を持って、朗唱し、唄うのは、「満江紅」。金の侵入から南宋を救った武将、岳飛の詩である。「欄干にもたるれば 瀟瀟たる雨が止む 遠くを望み天を仰ぎ 声を上げれば 雄々しき思い激烈なり…」。男の嗚咽が聞こえてくるよう。

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