地面数センチの目線で描いた時代小説「至高の靴職人」

2014年 12月 22日 12:00 Category : Art

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「枯れる…」「ああ、枯れる、だ。職人の世界ではけれんが消えて、内面から色気がにじみ出てくる境地をいう」。

ヤンチャな理由で高校を自主退学し、17歳で靴屋に弟子入りすると、2年といわれる下積み期間を1年で駆け抜け、渡り職人として頭角を現す。本書はそして晩年、ついに日本最高峰の手製靴職人という称号を得るにいたった男、関信義の物語である。

それは業界が機械化、産地移転を進める時代の趨勢に逆らった道のりであり、関の強靭な足腰にはただただ痺れる。あるいは行間にあふれる、現代の日本がすっかり失ってしまった、猥雑だが、真っ当で前向きな、絡みつくような熱気。地面数センチの目線で書かれた時代小説としてもすこぶる面白い。

その半生は手業の研磨に注がれた。冒頭引用した“枯れる”境地に達したからこそ対峙せざるを得なかった宿命との孤高の戦いには、男の矜持がみなぎっている。そうしてたどり着いた地平にあるものは…。凛としたエピローグは、ぜひ本書で堪能してもらいたい。

手に職をつける生業がここ日本で見直されているという。とりわけ靴の世界にそれは顕著で、1990年を前後して社会現象といっていいブームが巻き起こった。関は彼らへのエールとすべく半生を振り返ることを決めたそうで、職人のたまごに多くの気づきを与えてくれるのはもちろんだが、地に足のついた生きざまはひとしく私たちの心に刺さるはずだ。

ひとつ問題があるとすれば、ちょっといい靴が欲しくなってしまった、ということだろう。なにかと物入りの暮れに罪な本だった。

「至高の靴職人」
著者/竹川圭、版元/小学館、判型/四六判、頁数/192頁、発売日/12月3日、定価/1500円+税


文/エキサイトイズム編集部

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