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今週末見るべき映画「薄氷の殺人」

2015年 1月 9日 08:00 Category : Art

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昨年のベルリン国際映画祭で、グランプリの金熊賞と、主演男優賞にあたる銀熊賞をリャオ・ファンが受賞した映画「薄氷の殺人」(ブロードメディア・スタジオ配給)は、サスペンスたっぷり。バラバラ殺人事件をめぐってのドラマ展開の鮮やかさに、引き込まれる。雪の積もる冷え冷えした風景、夜の闇が、変化豊かに捉えられる。舞台は中国の華北地方だろうか、改革開放が進行しつつある地方都市。あちこちで、切断された遺体が見つかる。5年後、よく似たバラバラ殺人事件が起こる。ドラマは二転三転する。最後の最後まで、事件の真相が明らかにならない。


クリーニングに出した毛皮の上着が台無しになるいきさつなど、いくつかの、周到に用意された伏線が、エンディングの切ない現実に用意されている。少ないセリフで、地味な語り口だが、タッチはハードボイルド。監督のディアオ・イーナンは、ジョン・ヒューストンの「マルタの鷹」や、キャロル・リードの「第三の男」、オーソン・ウェルズの「黒い罠」といった名作を、何度も見直したという。なるほどと思う。中国・香港の映画ではあるが、全体を貫くトーンは、欧米の犯罪映画の雰囲気が充満し、新しいスタイルの中国映画と言えよう。

ベルリン映画祭では、審査員特別賞をウェス・アンダーソン監督の「グランド・ブダペスト・ホテル」(イズムで紹介)、監督賞をリチャード・リンクレイター監督の「6才のボクが、大人になるまで。」(イズムで紹介)が、それぞれ受賞している。2冠を受賞した本作の評価が、いかに高かったかが窺える。

極上のミステリーである。最後の最後まで、ドラマの構造が読めない。1999年、中国の華北地方のあちこちで、男の死体の断片が発見される。容疑者の兄弟は、逮捕時に抵抗、射殺される。事件は迷宮入りとなる。2004年。5年前と似た手口の事件が再発する。私生活にいろいろと問題を抱える元刑事のジャンが、独自に捜査を開始する。被害者たちは、いずれも、クリーニング店に勤めているウーという、若くて美しい未亡人と懇意であることが分かる。そして、ジャンは、ウーに心を奪われていく。接近したふたりが、3Dの映画を見るシーンがある。日本と中国の合作映画で、日本の村川透と中国のヤン・チィティエンが共同で監督した「侠女十三妹」だ。康煕帝の治世末期、権力争いで抹殺された両親の仇を討つ若い女性の話である。もちろん、本作の内容を暗示した、さりげないけれど、重要なシーンである。


脚本を書き、監督したディアオ・イーナンの演出手腕が冴えわたる。ドキュメンタリー・タッチで、細部がリアルに描かれる。お見事、というほかはない。想像を絶する、いろんな事件が起きている現代中国である。本作で、謝辞を受けたジャ・ジャンクー監督は、現代中国の抱える闇の部分を、「罪の手ざわり」(イズムで紹介)で鮮やかに描いたが、ディアオ・イーナンも負けていない。小説や映画でのフィクションよりも、中国の現実、さまざまな事件のありようは、奇々怪々かもしれない。改革開放の進む時代背景に展開する孤独な人間たちの生きようが、何とも切ない。

原題は「白日焔火」、日本語では「白昼の花火」である。劇中、同じ名のナイトクラブが登場し、エンディングでは、白昼に花火が上がる。白昼の花火には、もちろん、華やかさは、ない。比喩と現実が、巧みに交差する。練られた脚本に、監督の美意識が重なる。本作に限らず、これからも、現代の中国を舞台にした作品は、ジャンルを問わず、注目に値すると思う。

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