今週末見るべき映画「あの日の声を探して」

2015年 4月 23日 08:00 Category : Art

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ロシア連邦という国は、映画や音楽、美術など、すぐれた芸術家を多く輩出したが、とんでもない一面もある。国益なのだろう、ソ連が崩壊しても、ロシアは、チェチェンに拘る。チェチェンに豊富な地下資源がある以上、独立派を押さえつけ、チェチェンを手放そうとしない。1999年、ロシアのあちこちで爆破テロ事件が相次ぐ。犯人が特定できないまま、プーチンが首相を務めていた政府は、チェチェン人の仕業と断定、すでにチェチェンに逃げたと決めつける。ロシア軍のチェチェン侵攻が始まる。

「あの日の声を探して」(ギャガ配給)は、「アーティスト」(イズムで紹介)で大成功をおさめたフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督が、ずっと撮りたいと思っていた映画とのこと。先行し、基になる映画がある。1948年に撮られたフレッド・ジンネマン監督の「山河遙かなり」だ。ナチスの強制収容所から解放された少年が、廃墟のベルリンでアメリカの兵士と知り合う。少年の母親も生き延びて、息子を探して、ヨーロッパのあちこちをさまよう。


アザナヴィシウスは、この「山河遙かなり」を下敷きに、時代を1999年のチェチェンに置き換え、両親が殺されて、ロシア軍から逃れようとする少年ハジの彷徨を描いていく。合わせて、ロシアのごく普通の若者コーリャが、ロシア兵士に鍛えられていく悲劇をも。コーリャは、スタンリー・キューブリック監督「フルメタル・ジャケット」に出てくる訓練生レナードのように、やがて「狂気の兵士」に変貌する。さらに、チェチェンの難民キャンプの実態をレポートする女性キャロルが出てくる。キャロルは、EUの人権委員会の仕事で、いくら実態を調査しても、事態の解決に結びつかず、現実の悲劇は増すばかり。ハジは、あまりものショックで、声を失う。チェチェンの悲惨な現実が浮かび上がる。ハジは再び声を出し、しゃべることができるのか。救い、希望は、あるのだろうか。


余談だが、チェチェンの一般の人たちは、寛大で謙虚と聞いている。1999年頃のチェチェンの状況は、2007年に撮ったアレクサンドル・ソクーロフ監督の「チェチェンへ アレクサンドラの旅」を見れば、よく分かる。老女アレクサンドラが、ロシア軍兵士の孫に会うために、チェチェンにあるロシア軍の駐屯地に赴く話である。アレクサンドラは、知り合った、やはり老いた女性の家に招かれる。戦闘シーンはいっさい、ない。けれど、戦争の無意味さを、じわじわと感じさせる映画であった。合わせて、ご覧になることをお勧めする。

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