今週末見るべき映画「追憶と、踊りながら」

2015年 5月 22日 08:05 Category : Art

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なんとも、すてきなタイトルである。「追憶と、踊りながら」(ムヴィオラ配給)という。原題をそのままカナ表記にしたり、長めのサブタイトルがあったりと、外国映画の日本でのタイトルには、いささか困惑している。せめて、もうちょいと、すてきな日本語のタイトルをつけられないものかと思う。この「追憶と、踊りながら」は、まず、タイトルに惹かれた。タイトル通り、すてきな映画だった。


ロンドンの介護ホームで暮らす、カンボジア系中国人の老女ジュン。息子のカイが、ホームに面会に来る。ゲイのカイは、いっしょに住んでいる恋人のリチャードのことを、母親に言い出せない。バスの事故で、カイは亡くなる。ジュン、リチャードは、それぞれ、深い失望と喪失感、孤独を味わう。リチャードは、カイとの関係を秘密にしたまま、カイの友人として、英語の話せないジュンの面倒を見ようとする。生まれ、世代、慣習が異なる。リチャードがジュンに寄り添おうとしても、一筋縄にはいかない。


巧みな設定に、まず、驚く。さまざまなテーマが暗示されている。言語や文化、世代の相違がもたらす問題点が浮かぶ。歴史的な背景に、ポルポト政権下のカンボジアの現代史があり、イギリスの難民サポート政策がある。ゲイ、老齢化、孤独など、場所を問わない「いま」の問題の数々がある。映画は、一口に言うと、重厚というより、作り手の品の良さ、感性の豊かさが、じわーっと伝わってくる。

現在のドラマ進行を縫うように、カイが生きていた過去が追憶される。この案配、語り口が絶妙で、カイの繊細さ、優しさ、母親やリチャードへの思いやりが、よく分かる。恋人であるリチャードもまた、繊細で心優しい。カイは、ジュンに約束した音楽CDを届けられないまま、命を落とす。その約束を、リチャードが果たす。「キエン・セラ」というメキシコの曲で、アメリカでは「スウェイ」というタイトルで、ローズマリー・クルーニーやディーン・マーティンなど、いろんな歌手が唄っている。ジュンが、リチャードに託したのは、この中国語バージョンで、映画ではイー・ミンが唄っている。原曲はこんな歌詞である。「好きになってくれる人は誰なの? 誰なの? 誰なの? 愛してくれる人は誰なの? 誰なの? 誰なの?」。ジュンの好きだった曲だ。

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