今週末見るべき映画「靴職人と魔法のミシン」

2015年 6月 4日 10:00 Category : Art

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4、5年ほど前に、「扉をたたく人」という映画を見た。トム・マッカーシーの脚本、監督である。リチャード・ジェンキンス扮する、人生に疲れた初老の大学教授が、ニューヨークに出張した際、ジャンベという西アフリカの太鼓を演奏するシリア系の男と出会う。男からジャンべを習い、あちこちで演奏するうちに、教授が新しい人生に目覚めていく。単に、人種、世代を超えた友情物語に留まらず、9・11テロ後のアメリカの実情や、移民問題を絡ませるなど、複数のテーマを合わせ持った、優れた映画と思った。


このトム・マッカーシーの脚本、監督になる新作が「靴職人と魔法のミシン」(ロングライド配給)だ。舞台は、ニューヨークの下町、ロウアー・イーストサイド。ユダヤ人の中年男が、靴の修理店を開いている。4代目になる店主は、いまだ独身、認知症と思われる老いた母親と二人で暮らしている。ある日、黒人のギャングらしき男の靴を修理する。壊れたミシンに代わって、古いミシンで靴底を縫う。男は、何気なく、修理した靴を履き、ふと鏡を見る。顔が靴の持ち主の黒人に成り代わっているではないか。驚いた男は、ほかの客の靴を履いてみる。やはり、靴の持ち主に変化している。


奇抜な設定ではある。ファンタジー、おとぎ話である。しかし、この「寓話」がもたらすのは、いろんな人が、ふと、それぞれの人生を振り返り、さらに違った人生に思いを馳せる、絶好の機会を与えてくれることである。まことに巧みな語り口である。個々のシーンは、大笑いというより、クスクス笑い。やがてジワリと人生の意味を考えさせてくれる。周到に張り巡らせた伏線が連続する。だから、ラストは大ドンデン返し。思わぬ事実が判明し、畳みかけるような驚きが連続する。落語で言う、まわしオチ。鮮やかに連鎖する寓話が、映画としての輝きを獲得する。

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