今週末見るべき映画「あの日のように抱きしめて」

2015年 8月 14日 08:00 Category : Art

このエントリーをはてなブックマークに追加

圧倒的な存在感のある女優さんが登場すると、映画そのものが輝きに充ちたものとなる。ドイツの女優ニーナ・ホスもその一人だろう。「素粒子」の後、「東ベルリンから来た女」(イズムで紹介)に主演、すっかり魅せられてしまった。1980年、ドイツが西と東に分断されていた頃、西側へ脱出を企む女医役を熱演したニーナ・ホスの新作が「あの日のように抱きしめて」(アルバトロス・フィルム配給)だ。タイトルからは、ロマンチックなラブ・ストーリーを想起して、やや情緒的で平凡なタイトルと思った。ところが、映画を見終わると、なかなか素敵なタイトルと見直した。原題は「Phoenix」で、劇中に登場するクラブの名前である。「不死鳥」である。これまた、二重の意味で、いい原題と思う。


ドイツ敗戦後の1945年6月。ニーナ・ホスは、ユダヤ人の強制収容所から生還した声楽家のネリーに扮する。顔にひどい傷を受けていたネリーは、修復手術を受ける。ユダヤ機関に勤める親友の女性は、パレスチナに建国されるはずのユダヤ人国家への移住を考えているが、ネリーは、ピアニストの夫ジョニーとの再会を望んでいる。やがて、ネリーはジョニーと再会を果たすが、ジョニーは、ネリーがすでに死んだものと思っている。ジョニーは、ネリーの資産を手にしようと、ある計画をネリーに持ちかける。引き裂かれた夫婦には、それぞれの戦時中の記憶がある。消そうとしても消えない記憶に違いない。それでも、元夫婦だった二人は、生き延びるために、それぞれの方法で、未来を選びとろうとする。


少ないセリフだからこそのサスペンス。心理描写が精緻。クルト・ヴァイルの名曲「スピーク・ロウ」が、ドラマ展開の上で、重要な役割を果たす。およそ、ジャズ演奏者、歌手なら、必ず演奏し、唄ったはずの名曲である。クルト・ヴァイルといえば、ベルトルト・ブレヒトと作った「三文オペラ」が有名だが、パリに亡命後、アメリカに渡り、多くの優れたミュージカルを作曲した。「スピーク・ロウ」は、1943年のミュージカル「ヴィーナスの接吻」のなかのナンバーで、オグデン・ナッシュによる歌詞が、とてもいい。戦後すぐ、このヒット・ミュージカルは、エヴァ・ガードナー、ロバート・ウォーカー主演で映画化、「ヴィナスの接吻」とい う邦題で公開されている。

Related article

  • しあわせな人生の選択 【今週末見るべき映画】
    しあわせな人生の選択 【今週末見るべき映画】
  • ヨーヨー・マと旅するシルクロード 【今週末見るべき映画】
    ヨーヨー・マと旅するシルクロード 【今週末見るべき映画】
  • 映画「ニッポン国VS泉南石綿村」 【今週末見るべき映画】
    映画「ニッポン国VS泉南石綿村」 【今週末見るべき映画】
  • 映画監督外山文治短編作品集 【今週末見るべき映画】
    映画監督外山文治短編作品集 【今週末見るべき映画】
  • タンタンを探せ! プジョー×『タンタンの冒険』ゲームサイトでパリ街角探索
    タンタンを探せ! プジョー×『タンタンの冒険』ゲームサイトでパリ街角探索
  • 今週末見るべき映画「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」
    今週末見るべき映画「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」

Prev & Next

Ranking

  • 1
    インドの現代アートを堪能する。 「Urban Narratives ―ある都市の物語―」
  • 2
    ザハによる世界初の試み、ニール・バレット青山店
  • 3
    ショコラとSANSYO(山椒)のセンセーション
  • 4
    「D-BROS」が2013年カレンダーを販売開始
  • 5
    光の滴が落ちるかのよう、カナダから幻想的な照明「ボッチ」
  • 6
    ジャズ名盤講座第12回「コロムビア/CBS/エピック編パート1(1917-1959)」ビギナー向け19選!マスター向け19選!
  • 7
    「新型MINI コンバーチブル」試乗レポート
  • 8
    新型「プリウス」、38.0km/Lで価格は205万円から
  • 9
    長く使い続けるソファ|イタリア、フレックスフォルム
  • 10
    フォトギャラリー:クリストとジャンヌ=クロード展が開幕

Excite ism :

このエントリーをはてなブックマークに追加