今週末見るべき映画「僕たちの家に帰ろう」

2015年 8月 28日 08:00 Category : Art

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映画を見て、いいなあ、ためになるなあ、と思うことのひとつは、いままで知らなかった場所での人間の営みが窺えること。中国映画「僕たちの家に帰ろう」(マジックアワー配給)もそのような映画の一本で、昨年の東京国際映画祭のコンペティション部門で、「遙かなる家」というタイトルで上映された。昨年のコンペティションは全15作品。「世界各国、変貌する社会にあって、追いつめられる人々の”いま”を描いた作品群」と、映画祭側は言う。確かにその通りで、昨年のコンペティション作品は、一部、「これがコンペ?」と首を傾げる作品もあったが、おおむね、力作が揃ったと思う。15作品中、日本映画の「紙の月」だけ見落としたが、残りの14本を見た。なかで、深く印象に残ったのが、アゼルバイジャンのエルチン・ムサオグル監督の「ナバット」、ロシアのアレクサンドル・コット監督の「草原の実験」と、この「僕たちの家に帰ろう」だった。


中国の北西部、内陸である。甘粛省に住むユルグ族という少数民族の、まだ幼い兄弟が登場する。どのような民族かは知らなかった。また、舞台となる河西回廊は、古代シルクロードの一部で、かつて栄えた場所で、名前は聞いたことはあるが、どのような場所か、具体的なことは知らなかった。映画は、この地の歴史、牧畜の現状、自然環境の変化を折り込み、草原と水を求めて、羊の放牧をする父を訪ねる兄弟の旅が描かれる。

まだ小学生の兄バーテルと弟のアディカーは、両親と離れて暮らしている。兄弟は、放牧に出た父の居るところを訪ねようとする。主に放牧、牧畜で暮らす人たちだが、このところ地下水が不足し、井戸を掘っても水が出ない。草地が減る。水や草原を求めて、移動し続けなければならない。ざっと、そのような状況だが、広大な土地である。いまなお、息を飲むほどの美しい砂漠がある。かつて栄えた名残り、遺跡が、あちこちにある。草が枯れようとしている荒れ地、砂漠、古代の遺跡などを背景に、幼い兄弟が、いがみ合いながらも、父親を訪ねる旅を、淡々と描いていく。


13億人を超える人口の中国にあって、わずか1万4千人のユグル族である。かつては30万人もの人が暮らしていたという。時代の変化が押し寄せている。滅びゆくものと、文明の洗礼が交錯する。変わりつつある自然の風景だが、いまなお、美しい。かつての緑豊かな草原は、おそらく、もっともっと、美しかったのだろう。命ある人間やラクダは死ぬ。自然環境は変化する。それでも、人は逞しく生きていく。

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