今週末見るべき映画「最高の花婿」

2016年 3月 18日 08:00 Category : Art

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「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」。フランスの哲学者ヴォルテールが、どのような思想の人物であるかを問われて、タレンタイアが「ヴォルテールの友人」という著作で応じた言葉である。このヴォルテールが言う。「寛容とは何か。それは人間愛の所有である。我々はすべて弱さと過ちから作られているのだ。我々の愚かさを許し合おう。これが自然の第一の掟となる」と。


フランス映画「最高の花婿」(セテラ・インターナショナル配給)を見て、まっさきに思い出したのが、このふたつの言葉だ。「寛容」。言うのは簡単だが、何に対しても寛容であることは、まことに難しい。まさに人類の歴史は、D・W・グリフィスが撮った映画「イントレランス」のように、「不寛容」の歴史でもある。「イントレランス」の「アメリカ篇」、「ユダヤ篇」、「バビロン篇」、「フランス篇」が訴えるのは、不寛容こそが、あまたの悲劇を生むことである。「最高の花婿」は、ほぼ「イントレランス」で描かれた、寛容とは何か、不寛容とは何かを、軽快なテンポで一気に見せてくれる。

フランスのロワール地方。ほどほどに裕福なヴェルヌイユ夫妻には、4人の娘がいる。なんと、長女イザベルはアラブ人、次女オディルはユダヤ人、三女セゴレーヌは中国人と結婚する。いささか保守的な家庭に育ったがゆえの決意だと推測できる。夫妻は、末娘のロールだけは、カトリック教徒と結婚をと願う。姉たちが相次いで結婚した1年半後、両親の願う通り、ロールはカトリック教徒の男性と結婚することになるのだが。


凄まじいまでの、異文化の衝突である。そもそも宗教が違う。夫妻はカトリックだが、イザベルの婿はイスラム教、オディルの婿はユダヤ教、セゴレーヌの婿は無宗教。文化、風俗、習慣、食生活なども違う。義父のクロードにしろ、3人の婿にしろ、建前は通しても、それぞれの本音は、偏見があり差別そのものだ。はたして、誰と誰が、どこで、何が、どのように衝突するのか。何を許し、何を許さないのか。登場人物たちに、ヴォルテールの説く寛容の精神といったものが、そもそも存在するのか。


昔、スタンリー・クレイマー監督の「招かれざる客」という映画があった。スペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーン扮する夫妻に、娘がいる。娘が結婚したいと連れてきたのが、なんと黒人のシドニー・ポワチエ。スペンサー・トレイシーは、新聞社を経営するリベラリストである。さあ、どうなるか、といった映画だった。この異文化の衝突が、「最高の花婿」では、四倍になるわけである。

昨年のフランス映画祭では、「ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲」というタイトルで上映されている。まさに「狂騒曲」、とにかく、笑って、笑って、笑える。なにしろ、婿であるアラブ人、ユダヤ人、中国人が、いっしょにフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を唄い、揃って、カトリック教会のミサに参列するのだから。「自由、平等、博愛」を標榜するフランスだからこその映画で、その作劇センスに感服するのみ。映画は、末娘ロールの婚約者の素性が判明したあたりから、さらに大混乱を極めていく。


やや保守的、渋々、異邦人たちを娘の婿に迎える父親のクロード役にクリスチャン・クラヴィエ。娘たちを気遣う母親役はシャンタル・ロビー。4人の娘役、4人の婿役の計10人のアンサンブルがいい。超有名なスター俳優ではないが、将来有望と思われる若い俳優たちが揃い、絶妙のキャスティングである。そこに、末娘の婿になろうとする青年シャルルの両親、妹の3人が絡んでくる。楽しく笑って、やがて、人間のありようを深く考えこんでしまう、鮮烈な群像劇だ。


監督、共同脚本はフィリップ・ドゥ・ショーヴロン。監督作としては、たぶん、これが日本で初の公開となる。移民問題など、どこ吹く風。失業など、多くの社会問題を抱えるフランスの現実を、爽快に笑い飛ばす。異民族同士の結婚の多いフランスである。セリフにこうある。「君が家族に加われば虹色になる」と。見終わると、人は誰しも、すべてに「寛容」でありたいと思う。そして、「自分がしてほしくないことを他人にしないこと」である。ヴォルテールの精神は、フランスでは、いまなお生きている。

【Story】
フランスのロワール地方。パリからは170キロほど離れている。敬虔なカトリック教徒で、ほどほどに裕福なヴェルヌイユ家のクロード(クリスチャン・クラヴィエ)と妻マリー(シャンタル・ロビー)は、長女イザベル(フレデリック・ベル)の結婚式だというのに、渋い表情である。カメラマンが「笑って」と指示する。イザベルの婿は、アラブ人のラシッド(メディ・サドゥアン)で、当然、イスラム教である。夫妻の渋い表情が、一瞬、和らぐ。

すぐ、次女オディル(ジュリア・ピアトン)が結婚する。婿は、ユダヤ人のダヴィド(アリ・アビタン)で、もちろんユダヤ教だ。夫妻の渋い表情は変わらない。そして今日は、三女セゴレーヌ(エミリー・カーン)の結婚式。婿は、中国人のシャオ(フレデリック・チョウ)である。宗教は信じていない。

半年後、次女オディルの息子が、ユダヤの割礼式を迎えることになる。クロードの鬱積した不満が爆発する。半ばジョークのつもりで、「モンマルトルは外国人ばかりだ」と言ったクロードに、婿たち3人が「差別だ」と抗議する。逆ギレしたクロードは、シャオの作った中華料理を口にせず、マリーとともに帰ってしまう。ラシッドとダヴィドもまた、アラブとユダヤの民族論争を始め、たちまち大喧嘩となる。


1年半が経過する。娘3人を嫁がせたマリーは、娘たちや孫たちに会いたいと思っている。渋るクロードを説得して、クリスマスの日に、娘たち夫婦を自宅に招く。いろいろと気遣うマリーは、イスラム食の七面鳥を買い、北京ダックのレシピをマスターする。クロードに残された希望は、せめて末娘のロール(エロディー・フォンタン)だけは、カトリック教徒に嫁がせたいこと。クロードは、仲間のカトリック教徒の息子との結婚を、秘かに画策している。その頃、ロールは、カトリック教徒の青年シャルル(ヌーム・ディアワラ)からプロポーズを受ける。

イザベル、オディル、セゴレーヌは、それぞれの夫に言う。「宗教や文化などの危ない話題は避けて」と。6人がヴェルヌイユ家に集まる。マリーに説得されたクロードは、渋々ながら、割礼式での非礼を詫びる。クロードの音頭で乾杯し、アラブ、ユダヤ、中国合作とも言える七面鳥を切り分ける。婿3人は、フランス人よろしく、「ラ・マルセイエーズ」を唄い。さらに、みんなで教会のミサに向かう。

やがて、ローラと婚約したシャルルの素性が、夫妻の知ることとなり、事態はさらに大混乱になっていく。(文・二井康雄)

<作品情報>
「最高の花嫁」
2016年3月19日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
©2013 LES FILMS DU 24 ? TF1 DROITS AUDIOVISUELS ? TF1 FILMS PRODUCTION
公式サイト

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