今週末見るべき映画「帰ってきたヒトラー」

2016年 6月 16日 08:00 Category : Art

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 「おもしろうてやがて恐ろしき」映画である。自殺したはずのアドルフ・ヒトラーが生きていて、現代のベルリンに現れる。「帰ってきたヒトラー」(ギャガ配給)は、ただそれだけの設定である。もちろん、コメディの形を装った、痛烈なドイツ文明批評である。しかも、それが、ドイツ一国に留まらない。


 原作になった小説がある。書いたのは、ティムール・ヴェルメシュ。ジャーナリストを経験し、小説を書き始める。これは、本名で書いた初めての小説だ。原題は「Er ist wieder da」。「彼はまたここにいる」といったほどの意味だろう。邦訳は映画と同じで、上下2巻の「帰ってきたヒトラー」(河出書房新社・森内薫 訳)だ。この小説が、べらぼうにおもしろい。元の文章がいいのか、翻訳がすぐれているのか、ともかく、上下2巻の小説を一気に読ませる。小説はすべて、ヒトラーの一人称で語られる。

 ヒトラーは自殺したことになっている。遺書では、遺体をガソリンで焼け、とあった。現代のベルリン。ヒトラーは、ガソリン臭い軍服を着て、目覚める。ヒトラーは、遺言で指名したナチの党担当大臣マルティン・ボルマンの名を呼ぶが、いるわけはない。こどもたちがサッカーをしている。こどものトレーナーにロナウドと書いてある。たぶん、有名なサッカー選手だろう。ヒトラーは声をかける。「ヒトラー・ユーゲントのロナウド! 通りにはどうすれば出られるか?」と。もちろん、こどもに無視される。


 ヒトラーは、チャーチルが利用できないよう、ベルリンの街全体を、焼き尽くし、破壊するよう命じたはずである。そのままどころか、立派な街になっている。ヒトラーは、新聞の日付を見て、気を失う。原作では、2011年8月30日だが、映画では、2014年になっている。気を失ったヒトラーを助けたキオスクの店員が、「鏡を」と言うヒトラーに、週刊誌の「シュピーゲル」(意味は鏡)を差し出す。

 万事、この調子である。これが、現代のドイツへの、痛烈な風刺になっている。いまのベルリンや、ドイツのあちこちを、70年ほど前に亡くなったヒトラーが見る。いろんな人物と話す。みんなは、そっくりさんの物まね芸人と思って、いっしょにスマホのカメラに収まる。

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