「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」【今週末見るべき映画】

2016年 11月 4日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 1980年9月。ジェイクは、野球の技術を見込まれて、南東テキサス州立大学に推薦入学する。ジェイクは、野球部の寮に入るべく、車を走らせる。1979年の大ヒット曲、ザ・ナックの「マイ・シャローナ」を聴きながら。


 「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」(ファントム・フィルム配給)は、初っぱなから軽快なすべりだしである。いきなり、「青春そのもの!」と思ってしまう。いったい何が青春なのかは、若いころには気がつかないが、ある程度の年齢になると、「ああ、これが青春だったんだなあ」と思うものである。

 ジェイクは、大好きなレコードを抱えて、野球部の寮に入る。先輩の上級生たちは、一癖も二癖もある、風変わりな者ばかり。つい、自分はどうだったかを思い出してしまった。


 時代は少し前になるが、東京でオリンピックがあり、東海道新幹線が開通した翌年、東京の大学に入った。大きなバッグに、身の回りの品や、福永武彦の「草の花」の文庫本と、FM放送から録音したジャズやタンゴ音楽のオープンリールのテープを数本収めて、東京駅に着いた。大学の寮では、風変わりな上級生や、個性的な同級生が多かった。

 映画のタイトルになった「エブリバディ・ウォンツ・サム」は、1980年に出たヴァン・ヘイレンのアルバム「暗黒の掟」に収録されている曲である。「若いころは、あれもこれも、何でも欲しがる」とのリチャード・リンクレイター監督の思いにぴったりとのことでのタイトルらしい。監督の前作「6才のボクが大人になるまで」は、主人公のメイソンが、大学生になり、いよいよ恋をするんだなあ、というところで終わっている。つまり、「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」は、「6才のボクが大人になるまで」のラストシーンから始まる、とも言える。もちろん前作を見ていなくても、これはこれで、じゅうぶんに心地よく楽しめると思う。


 ちなみに言うと、本作の続きは、1995年に撮った、同じリチャード・リンクレイター監督の「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」ということになる。その続きは、2004年に撮った「ビフォア・サンセット」、その続きは、2013年に撮った「ビフォア・サンライズ」である。

 ジェイクたちは、野球の練習をし、女の子と遊び、パーティで騒ぎ、好きな音楽を聴き、下ネタいっぱいの会話を交わす。若い、といってしまえばそれまでだが、当然、世間の猥雑さとは無縁の世界。だからこそ、純粋。若いときにだけにしか出来ないことをする。それでいいのである。やがて、ジェイクたちは、世界というものが、自らの手の中にあるのではないと知ることになるのだから。

 リチャード・リンクレイター監督は、時代を鋭く切り取り、みずみずしいばかりの青春群像をスクリーンに定着した。自らも、野球選手を志したが、この願いは叶わなかったようだ。溢れるような、キレのある比喩や深い含蓄のあるセリフに満ちている。これは、監督自身の青春時代を回顧しながらの「惜別の唄」でもある。


 リチャード・リンクレイターが、「バッド・チューニング」で起用したマシュー・マコノヒー、ミラ・ジョボヴィッチ、ベン・アフレック、レニー・ゼルヴィガーが、後に大成したように、本作でも将来有望、大スターになるのではないかと思わせる若手がズラリと出ている。なかでも、主人公のジェイク役を演じたブレイク・ジェナーと、カリスマ性はあるがどこか暗い性格のフィネガンを演じたグレン・パウエルは、今後、多くのスクリーンに登場することと思う。また、ジェイクと同じ新入生で、演劇専攻の女子大生ビバリーに扮したゾーイ・ドゥイッチが、おお化けの可能性を秘めている。そう、母親は女優のリー・トンプソン、父親は映画監督のハワード・ドゥイッチである。


 70年代後半から80年代前半の、アメリカの音楽シーンを席巻した曲が、ズラリと出てくる。パット・ベネターの「ハート・ブレイカー」、ブロンディの「ハート・オブ・グラス」、カーズの「グッド・タイムズ・ロール」、パティ・スミスの「ビコーズ・ザ・ナイト」、チープ・トリックの「甘い罠」、シュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・ディライト」、ディーヴォの「ホイップ・イット」などなど。目を閉じると、耳がちゃんと記憶している曲ばかり。


 1980年は、ソ連のアフガン侵攻に反対したアメリカが、モスクワのオリンピックをボイコットした年だ。11月には、元映画俳優のロナルド・レーガンが大統領になっている。日本では、八代亜紀が「雨の慕情」でレコード大賞を受賞、巷では、もんた&ブラザーズの「ダンシング・オールナイト」が流行っていた。


 「青春」。あとにして思えば、あっという間にやってきて、足早に過ぎ去ってしまう。だから、甘酸っぱいのだろうか。二度と戻らない日々である。

●Story(あらすじ)
 1980年9月。ジェイク(ブレイク・ジェナー)は、野球の才能が認められ、テキサスにある南東テキサス州立大学に推薦入学を果たす。ここは、大学野球では強豪、名門チームである。

 新学期まで、あと3日。ジェイクは、野球部の寮に入るため、大好きな音楽を聴きながら、車を走らせる。お気に入りのレコードを抱えて、寮に入るジェイク。高校時代は、野球のスター選手だったことは、上級生も知っている。だからジェイクへの歓迎は、決していいものではない。

 4年生のマクレイノルズ(タイラー・ホークリン)や、同じ部屋のローパー(ライアン・グスマン)は、心からジェイクを歓迎する様子ではない。ほかの上級生たちもまた、それなりのエリートなのに、どかこか風変わりな者ばかり。

 マリファナ好きで、カール・セーガンの「コスモス」が愛読書のウィロビー。ニューヨーク・メッツ、カリフォルニア・エンゼルス、ヒューストン・アストロズで活躍していた大投手、ノーラン・ライアンの再来とばかりに妄想を膨らますナイルズ(ジャストン・ストリート)。何でもかんでも、賭け事の対象にしてしまうネズビット(オースティン・アメリオ)、気さくなのに、嫌みばかりを口にするビリー(ウィル・ブリテン)。よく喋り、リーダーシップがありそうだが、どこか根が暗いフィネガン(グレン・パウエル)など。

 寮に着いて、荷物をおろす間もなく、ジェイクは、フィネガンたちから大学構内を案内される。車の中でも大騒ぎ。下ネタの連発である。車の中から行き交う女の子に声をかける。軽く、あしらわれてしまう。女子寮の前で、さっそくのナンパ。黙って、車の後ろに座っていたジェイクだけが、演劇専攻のビバリー(ゾーイ・ドゥイッチ)に気にいられたようだ。

 野球部の寮には、2つ、決まりがある。寮内では飲酒禁止。女性は一階までで、寝室には入れないこと。呑むのなら、外で呑め、というわけである。もちろん、こういった決まりを守る者はいない。

 夜、おしゃれないでたちで、地元のディスコに向かう。さらに、カントリースタイルのバーで、南北戦争のころから伝わる曲「コットンアイジョー」で、ラインダンスを踊りまくる。

 週末には、パンクロックのライブ。おしくらまんじゅうのようになって、モッシュを踊る。野球部だから、もちろん練習がある。それでも、チームメートは、相変わらずのバカ騒ぎの連続である。

 不安と期待のなか、限りない自由を感じながら、ジェイクはおとなへの道を一歩、一歩、進んでいく。(文・二井康雄)

<作品情報>
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』
(C)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

2016年11月5日(土)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
公式サイト

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