マイ・ベスト・フレンド【今週末見るべき映画】

2016年 11月 17日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 中学、高校、大学と、顔ぶれは変わるが、いつも二人でいっしょにいる女の子たちがいた。仲良しなのだろうか、トイレに行くのもいっしょ。どちらかに声をかけたくても、寄せ付けないほどの仲のよさ。彼女たちのその後の消息は知らないが、あの子とあの子は、その後どうなったのかなと、時折、思ってみたりする。


 「マイ・ベスト・フレンド」(ショウゲート配給)は、幼いころからからの仲良しの女の子ふたりの話である。ほほえましく、なつかしく、見ているうちに、ふたりは、人生の大きな試練にいきあたる。女性同士の友情は長続きしないと言われるが、映画でのミリーとジェスの場合は、それぞれが、よきパートナーとめぐりあい、ミリーには子どもがふたり出来ても、家族ぐるみで、ミリーとジェスの仲のよさは、ずっと続いている。


 ふたりに人生の試練がくる。ミリーは乳がんになる。子どもの欲しかったジェスには、なかなか子どもができない。不妊治療の甲斐あって、やっと妊娠したジェスは、このことをミリーに、打ち明けられないでいる。いままで、秘密などのなかった仲に、秘密ができる。さて、どうなるか。

 明快でシンプル、スピーディー、奇をてらうことことなく、ドラマが展開する。はじめの数分間で、ドラマの全体像を提示、登場人物たちの性格、置かれた状況を一気に見せてしまう。あちこちに笑いを誘うセリフが飛び交う。奔放な性格のミリーのちょっと品のない話にも、賢明なジェスはうまくつきあう。かたや乳がん、かたや不妊と、いたってシリアスな話なのに、ドラマの作り手は、ことさら泣かせようようとしない。笑っているうちに、後半は、ごく自然に、思わず涙がこみ上げてくるのだ。自然に、勝手に泣いてしまうという、巧い運びの作劇術だ。


 オリジナルの脚本を書き、製作総指揮を務めたモーウェナ・バンクス自身、乳がんを経験している。がん患者をとりまく細部が、リアルなのも当然だろう。ことに、ミリーがウィッグを選び、髪を剃るシーンなどのセリフは圧巻である。また、セリフのあちこちに、映画ネタが出てくる。「E.T.」や「キャプテン・アメリカ」、マーティン・スコセッシなどなど。さらに、セリフには、たびたび、エミリー・ブロンテの小説「嵐が丘」が出てくる。小説のおおまかなあらすじや、ヒースクリフやキャサリンが、どのような人物なのかの予備知識があれば、ミリーやジェスたちのセリフのおもしろさが、より深く楽しめることと思う。

 出てくる俳優が、ことごとく、いい。ミリー役は、トニ・コレット。最新のファッションで颯爽としているかと思えば、ハンサムなバーテンと戯れたり、がん患者の一挙一動をきめ細かく演じたりと、まさに力演そのもの。ミリーを気遣うジェス役は、ドリュー・バリモアである。「E.T.」で、絶叫した6歳の少女は、いまや映画監督もこなす。ローラーゲームに青春を賭けた女性たちの友情を描いた「ローラーガールズ・ダイアリー」を監督している。ミリーの母親役は、ジャクリーン・ビセット。フランソワ・トリュフォー監督の「映画に愛をこめて アメリカの夜」に出てから、もう40年以上経っている。70歳を過ぎたからこその存在感。しかもなお、美しい。


 いったいに、女性たちの友情を描いた映画に秀作が多い。「テルマ&ルイーズ」、「マグノリアの花たち」、フランス映画の「ミナ」などは、印象に残る傑作だろう。「マイ・ベスト・フレンド」もまた、多くの笑いと涙があふれ、心震える。

 監督は、「トワイライト~初恋~」を撮ったキャサリン・ハードウィック。多くの著名監督のプロダクション・デザインを務めた女性。


 期待通り、いや、それ以上のウエルメイド。小説「嵐が丘」の舞台になったヨークシャーに、ミリーとジェスが立つ。「身を切るような不天候、通行止めの道」(「嵐が丘」より)である。それでも、ミリーとジェスは、人生の新たな一歩を踏みだそうとする。イギリス映画のコクと小粋さ、たっぷり。晩秋のおすすめの一本。

●Story(あらすじ)
 父親の転勤で、小学生のジェスは、アメリカからイギリスのロンドンに引っ越してくる。ジェスは、ミリーと出会う。すぐ、仲良しになったふたりは、以来、なにをするのもいっしょである。

 ふたりは大人になる。奔放な性格で、派手好みのミリー(トニ・コレット)は、華やかなファッションに身をつつみ、バンドボーイのキット(ドミニク・クーパー)とつきあっている。ジェス(ドリュー・バリモア)は堅実な生き方を選び、市役所で、環境保護関係の仕事に就いている。性格、生き方こそ違え、ふたりはいまでも仲良しである。

 ある日、ミリーが妊娠する。ミリーとキットは結婚し、堅実な生き方を選ぼうとする。キットとミリーは、スピーカーの製造会社、サウンズ音響社を起こし、成功をおさめる。二人目の子どもも生まれ、万事、順調のようである。

 ジェスは、環境保護活動で知り合ったジェイゴ(パディ・コンシダイン)といい仲になり、ボートハウスで暮らし始める。ジェイゴは心優しく、ユーモアのセンスもある。立派な住居ではないが、それなりの暮らしに、ジェスとジェイゴは満足している。ただし、子どもが出来ないことだけが、ふたりの悩みだった。

 そんなころ、ミリーに乳がんが見つかる。ジェスの励ましもあり、ミリーは、キットや子どもたちに明るくふるまうが、化学療法の副作用が出始め、髪の毛が抜けていく。ミリーの母親で、テレビ女優をしているミランダ(ジャクリン・ビセット)は、娘との不仲もなんのその、映画にでてくるウィッグを用意したりしてくれる。

 そんななか、ミリーの症状はよくならない、ついに、医師からは両乳房切断の提案を受ける。みんなが祝ってくれるミリーの誕生日。「同情はいらない」とばかりに、酔っぱらったミリーは、席を立つ。ジェスが追いかける。タクシーに乗ったミリーは、運転手に、とんでもない行き先を告げる。事情を知るジェスは、もちろん、ミリーにつきあうのだが……。

<作品情報>
「マイ・ベスト・フレンド」
(C)2015 S FILMS(MYA) LIMITED

2016年11月18日(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
公式サイト

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