「胸騒ぎのシチリア」【今週末見るべき映画】

2016年 11月 18日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 シチリアのパンテッレリーア島は、チュニジアとシチリア島のほぼ中間に位置する、風光明媚な小さな島である。第二次世界大戦中、イギリス軍の空爆で、イタリア軍は降伏、いわゆるコークスクリュー作戦で有名な島だ。いまでは、世界じゅうのセレブが、観光で訪れるらしい。


 このパンテッレリーア島を舞台にした「胸騒ぎのシチリア」(キノフィルムズ、木下グループ配給)を見た。ごひいきの女優ティルダ・スウィントンが出ている。声帯の手術を受けたばかりのマリアンという、世界的なロック歌手を演じる。資料によると、1968年に撮られた「太陽が知っている」のリメイクである。「太陽が知っている」の舞台はサントロぺ。アラン・ドロン、ロミー・シュナイダー、モーリス・ロネ、ジェーン・バーキンが出ていた。原題は、日本でいう水泳の「プール」である。監督はジャック・ドレー。脚本は、ジャン・クロード・カリエールとジャック・ドレー、ジャン・エマニュエル・コニルの共同執筆になる。アラン・ドロンだからこその邦題だが、映画では、プールが重要な役割を果たす。


 同じ頃、アラン・ドロンの元ボディガードだったステファン・マルコヴィッチが原因不明の死を遂げる。後にフランスの大統領となるジョルジュ・ポンピドゥーが、事件に絡んでいたらしい。「胸騒ぎのシチリア」は、リメイクとはいえ、見る動機は、もうこれだけでじゅうぶん。


 ティルダ・スウィントンが、圧倒的にいい。華奢だが、セクシー。主役、脇役を問わず、どのようなキャラクターを演じても、ミステリアスな雰囲気が、いつも濃厚に漂う。本作では、回想シーンをのぞいて、極端にセリフが少なく、少ししゃべっても小声。表情、身振り手振りでの表現という難役だが、それがじつに雄弁。ディオールにいたラフ・シモンズのデザインによる衣装が、艶やか。大胆な肌の露出に、いささか驚くが、これも目を楽しませてくれる。


 ドラマは、男女4人の、いわば四角関係。マリアンは、映画の撮影監督で、年下のポールと、バカンスを楽しんでいる。そこに、マリアンの元の恋人で、ローリング・ストーンズも手がけたことのある音楽プロデューサーのハリーが、まだ若い娘ペンを連れて訪ねてくる。ハリーは、6年前にマリアンをポールに紹介した仲である。ハリーの目的は、マリアンとの復縁だが、マリアンは応じない。ハリーの実の娘かどうか分からないペンは、ポールに挑発的な態度を取る。

 島のお祭りが始まる。みんなは、飲み、踊り、唄う。マリアン、ハリー、ポールの過去のいきさつが、徐々に明らかになる。愛といえば聞こえはいいが、嫉妬や欲望が行き交う。世代間の確執も存在する。プールのある、豪華な別荘である。いつ、どうなるか。当然のように、事件が起こる。


 饒舌で陽気、器用で才覚あるハリー役がレイフ・ファインズ。踊り、唄い、裸になるなど、大サービスを見せる。過去に問題を抱えたポール役が、ベルギー生まれのマティアス・スーナールツ。最近では、「ヴェルサイユの宮廷庭師」や「リリーのすべて」に出ていた。ペンを演じたのは、ダコタ・ジョンソン。父ドン・ジョンソン、母メラニー・グリフィスの血を受け継いだか、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」で大ブレイク。まだ、あどけなさは残るものの、妖艶さがちらり。


 監督のルカ・グァダニーノは、ティルダ・スウィントンと縁が深く、「ミラノ、愛に生きる」に次いでのコンビで、新作もまた、ティルダ・スウィントンが主演のようだ。

 ローリング・ストーンズの音楽があちこちに。「エモーショナル・レスキュー」、「ムーン・イズ・アップ」、「ヘブン」だ。映画のオリジナル「太陽が知っている」の事件は、原題通り、プールで起きる。「胸騒ぎのシチリア」の事件もまた、プールで起きる。ローリング・ストーンズのレコードを伴って。


 人間は愚かだけれど、他人を愛さずにはいられないし、欲望から逃れられない存在だろう。美しい島の自然、豪華な別荘、華麗なファッション、祭り、音楽、踊り、ワイン、鯛料理などのお膳立てが揃う。人間に欲望があり、愛と憎しみ、嫉妬の感情がある限り、事件は起こる。いつ起こるのかを見つながらの時間が、映画を見る至福の時間となる。

●Story(あらすじ)
 世界的に有名なロック歌手のマリアン(ティルダ・スウィントン)は、声帯を手術した後で、声が出せない。毎日、薬を飲み、やっと、小声で少し話せるようになっている。いまは、シチリアのパンテッレーリア島で、撮影監督をしている年下の恋人ポール(マティアス・スーナールツ)とバカンスを楽しんでいる。

 そこに、マリアンの昔の恋人で、音楽プロデューサーをしているハリー(レイフ・ファインズ)から電話が入る。話せないマリアンに代わって、ポールが電話を受ける。ハリーは勝手に話し続ける。「あと5分で島に着く」と。

 ハリーは、22歳になるという娘のペン(ダコタ・ジョンソン)を同伴している。マリアンとポールは、ハリーとの再会を喜んでいるように見える。ちょうど、島のお祭りで、ホテルはどこも満員である。マリアンは、友人から借りている別荘の離れに、ハリーとペンの父娘を泊めることになる。

 陽気で活動的なハリーは、プールに派手に飛び込んだり、シチリア料理らしい鯛の塩釜焼きを作ったり、島の知り合いを招いたりの勝手放題。ローリング・ストーンズなどを手掛けていた辣腕の音楽プロデューサーのハリーは、取材で撮影にきたポールと親しくなり、別れたばかりのマリアンに引き合わせたのだった。

 ポールは撮ったフィルム・データを整理する仕事がある。夕方、ポールをおいて、みんなは祭りに出かける。ハリーはマリアンに復縁を迫るが、マリアンは「いまが幸せだ」と、やんわりと拒否する。マリアンは、小さな声で話せるところまで回復していることを、ハリーに内緒にしていたのだった。

 ペンは、遅れて合流したポールを挑発するように、自動車での自殺未遂の話を持ち出す。ペンは、1年ほど前のポールが、アルコール依存症で自殺をはかったことを、ハリーから聞いていたのだ。

 祭りである。クラブでは、有名なマリアンの来店で、みんな大騒ぎである。ハリーが唄い、マリアンが踊る。マリアンは、かつてハリーと過ごした日々を思い浮かべる。ペンとポールもやってくる。ハリーは、まるで恋人同士のようにペンと踊る。マリアンは、ハリーとペンの様子を、じっと見つめている。

 マリアン、ハリー、ポール、ペンのそれぞれの思惑が交差する。ペンは、マリアンに嫉妬するかのようだし、ポールは、自らの仕事にまで口をはさむハリーに、嫌悪感を抱くかのようだ。たまたま、マリアンとハリーが買い物に出かけ、ペンとポールはふたりきりになる。ポールに体を見せつけるようにふるまうペン。ハリーはまた、マリアンに復縁を迫る。

 すでに事件の予兆が始まっている。

<作品情報>
「胸騒ぎのシチリア」
(C)2015 FRENESY FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED

2016年11月19日(土)、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
公式サイト

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