The NET 網に囚われた男 【今週末見るべき映画】

2017年 1月 6日 08:00 Category : Art

このエントリーをはてなブックマークに追加

 韓国との国境近くに住む北朝鮮の貧しい漁師チョルは、今日も漁に出る。網が舟のモーターに絡み、舟は韓国側に流される。チョルは韓国側に捕らえられ、スパイ容疑で拷問され、亡命を強要される。チョルは、無事、祖国に戻ることが出来るのか。


 韓国のキム・ギドク監督の新作「The NET 網に囚われた男」(クレストインターナショナル配給)は、理不尽な運命に翻弄される漁師チョルを通して、分断された朝鮮半島のいま、韓国と北朝鮮の現実を描いて、まさに時宜を得たテーマといえる。昨年の第17回東京フィルメックスのオープニング作品が、いよいよ公開となる。


 韓国では、さまざまなジャンルの映画が製作され、そのレベルが高い。ごひいきの監督が二人、いる。ひとりはホン・サンスで、映画関係の男と女、酒といった少ないお膳立てでの作品が多い。おおげさに言えば、人間存在の内奥に迫った、大きな世界を構築し、その作品世界は、ホン・サンス節ともいえる、独特の雰囲気を醸し出す。もうひとりがキム・ギドクだ。1996年の「鰐(ワニ)」以降、ほぼ年1、2本のペースで、優れた映画を撮り続けている。なかでも、「春夏秋冬そして春」、「弓」、「悲夢」などは、傑作と思う。一時、スランプの時期があったようだが、最新作「The NET 網に囚われた男」では、あざやかな語り口に加え、バイオレンス描写をほぼ封印、緻密なドラマ展開に、ひときわ突き抜けた新しい映画文法を獲得したようだ。


 キム・ギドクの言葉が資料に掲載されている。「意思にかかわらず、人間は、生まれた場所の政治的イデオロギーの中で身動きができない。ある漁師を通し、我々は知ることだろう。分断された朝鮮半島によって、犠牲を強いられている我々のあり様を。そして、分断がもたらす大いなる悲哀を……」。

 キム・ギドクは、映画を通して問いかける。

 国家とはなにか。国家に属する個人とはなにか。個人は常に犠牲を強いられる弱者なのか、と。その視点は、国家である北朝鮮、韓国のいずれにも組みしない。冷静、平等に、二つの国の持つさまざまな矛盾を、あぶりだしていく。同じ民族が分断されたままである。犠牲を被るのは、チョルのような、つねに弱者である。


 キム・ギドクには、かつて「悲夢」の日本公開時に、囲みでのインタビューをしたことがある。自作について、訥々と、誠実に語る。監督の胸の内には、常に韓国の現在の状況が横たわっている。作る映画が、次第に政治的色彩が強くなっていくのも当然かもしれない。

 チョルは、ソウルの繁華街で、資本主義の繁栄を見て、目を見張る。妻や幼い娘にあげたいものが、ショーウィンドーにあふれている。その様子が北のテレビに映る。このちょっとしたシーンが、重要な伏線となって、チョルの将来を暗示する。まるで、網にかかった魚のようなチョルは、亡命を強要されるが、チョルは応じない。北朝鮮には、愛する妻子が待っている。

 チョルを演じたのはリュ・スンボムで、無知ではあるが、強靱な精神の持ち主を力演。アクション映画への出番が多いが、ここでは、ひたすら堪え忍ぶ役柄だ。韓国側の若い警護官役にイ・ウォングン。まだ、あどけなさが残るが、チョルと次第に心を通わせていく難役をそつなく演じる。達者なのは、徹底的に北朝鮮を敵視する取り調べ官に扮したキム・ヨンミンで、いまやキム・ギドク作品ではおなじみだ。チョルの帰りを待ちわびる妻役はイ・ウヌで、キム・ギドク監督の「メビウス」や「殺されたミンジュ」でおなじみの女優。


 俳優層の厚い韓国で、キム・ギドクが適役を得ての力作。キム・ギドク作品は、今までもそうだが、もはや目が離せない。政局不透明のいまの韓国である。キム・ギドクの表現するテーマは、まだまだ存在すると思われる。

●Story(あらすじ)
 韓国との国境近くにある北朝鮮の寒村。漁師のナム・チョル(リュ・ソンブム)は、妻(イ・ウヌ)と幼い娘の三人で暮らしている。敬愛する将軍さまの写真が飾ってある。チョルは、今日も朝早くから、漁に出ようとしている。貧しい暮らしである。娘は、妻が繕った縫いぐるみを抱えて眠っている。チョルは、小さなモーターボートで出発する。

 網がモーターに絡み、ボートは制御不能になる。北朝鮮の国境警備の兵士が制止するなか、チョルのボートは、韓国側に流されてしまう。

 韓国側からみると、脱北者はほぼすべて、スパイ扱いとなる。チョルは、取調官(キム・ヨンミン)から、厳しい尋問と拷問を受ける。チョルの監視役として、まだ若い警護官のオ・ジヌ(イ・ウォングン)が就くことになる。オ・ジヌは、手ひどい扱いを受けるチョルの反応を見て、チョルはスパイなどではないと思い始める。

 チョルと同じようなスパイ容疑で拷問を受けている男がいる。男は、舌を噛みきって自殺をはかるが、死ぬ直前にチョルに伝言を託す。「ソウルにいる娘に伝えてくれ」と。

 手ひどい拷問を受けても、チョルは潔白である。しかたなく取り調べ官たちは、チョルを泳がせて、その動向を探る方針に切り替える。チョルは、目隠しをされたまま、ソウルの繁華街に連れていかれる。目隠しが取られ、その賑やかさに呆然とするチョル。娘のためにと思ってか、立派なぬいぐるみに、チョルの目が釘付けになる。

 チョルは、家族の生活のために身を売る女性と出会ったりして、繁栄するソウルの影の現実を目の当たりにする。やがて、チョルは、死んだ男の伝言を伝えるために、指定された場所に赴く。結果、韓国側は、潔白のチョルが、スパイだった男の仲間たちに接触したことを知る。

 しかも、ソウルの繁華街をさまようチョルの映像が、北朝鮮側に流れてしまう。これを知った韓国側は、南北関係の悪化を憂慮しだす。チョルの身柄は、いったいどうなるのだろうか。

<作品情報>
「The NET 網に囚われた男」
(C)2016 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved. 

2017年1月7日(土)よりシネマカリテほか全国ロードショー
公式サイト

Related article

  • 今週末見るべき映画「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」
    今週末見るべき映画「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」
  • 今週末見るべき映画「神々のたそがれ」
    今週末見るべき映画「神々のたそがれ」
  • 今週末見るべき映画「GONZO」
    今週末見るべき映画「GONZO」
  • 今週末見るべき映画「92歳のパリジェンヌ」
    今週末見るべき映画「92歳のパリジェンヌ」
  • 今週末見るべき映画「シャドー・ダンサー」
    今週末見るべき映画「シャドー・ダンサー」
  • 「今週末見るべき映画」2016年を振り返って選んだ10本
    「今週末見るべき映画」2016年を振り返って選んだ10本

Prev & Next

Ranking

  • 1
    ミニマルな建築空間で味わうデザインキッチン|福岡に誕生
  • 2
    日用品のデザイン「SyuRo」/蔵前・鳥越、つくり手の顔が見える街(2)
  • 3
    ナイスガイズ! 【今週末見るべき映画】
  • 4
    雨の日は会えない、晴れた日は君を想う 【今週末見るべき映画】
  • 5
    今週末見るべき映画「あまくない砂糖の話」
  • 6
    BEAMS TがNIKE SPORTSWEARと期間限定ショップ
  • 7
    ブラインド・マッサージ 【今週末見るべき映画】
  • 8
    今週末見るべき映画「ラサへの歩き方 祈りの2400km」
  • 9
    ポルシェ カイエンSプラチナエディションの予約受注を開始
  • 10
    “これからの帽子”を提案。「KAMILAVKA(カミラフカ)」オープン

Excite ism :

このエントリーをはてなブックマークに追加