ブラインド・マッサージ 【今週末見るべき映画】

2017年 1月 13日 08:00 Category : Art

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 目の見えない人は、人のこころが見えるよう。視覚のない分、嗅覚、聴覚、触覚、味覚が、健常な人に比べて、鋭いようだ。もちろん、それなりの生きることへの欲望もある。


 目が見えないまま、欲望をつのらせていく若者に、自らの美に興味のない女性が登場する。いったい、目の見えない人たちは、何を見ているのか。闇を見つめ、接する他人のこころのうちを見ているのか。目の見えない人にとっての「美」とは何か。

 ロウ・イエ監督の映画「ブラインド・マッサージ」(アップリンク配給)は、健常者、つまり目の見える人間に、さまざまな問いを突きつけてくる。中国で出版され、20万部のベストセラーになったビー・フェイユィの小説が原作である。香港返還がきっかけとなり、盲人たちの営むマッサージ店が大繁盛する。目が見えないまま、ひたすら、たくましく生きようとする。人間だから、いろんな性格の人物がいる。もちろん男も女も、性への渇望もあるだろう。盲人にとっても、これもまた人生。


 原作は、マッサージ師たちの群像を、章ごとに、平等に描いているが、映画では、人物によって、いささか比重を変えてのドラマ仕立てになっている。ロウ・イエ監督と原作者のビー・フェイユィは、親しい仲だそうである。映画化にあたっての変更点は、原作のテーマを歪めるものではない。


 面子を第一に考える中国人のメンタリティが存在する。マッサージ院の院長の友人が訪ねてくる。友人は、弟の借金をめぐって、「金よりも面子だ」と叫んだりする。若いマッサージ師に、人生の大きな転機を与えることになる同僚のマッサージ師は、快板の達人で、「孫悟空」の一節だと思うが、みごとな快板さばきで披露する。快板は、中国の伝統芸能のひとつで、左手に5枚、右手に2枚、両手に持った竹の板を指ではさみ、カスタネットのように打ち鳴らしながら、韻をふんだセリフを語る。盲人が生きる手だてとして、マッサージの技術を拾得するように、快板といった芸を身につけたものと思われる。


 映画の舞台は南京だが、細部にわたって、目の見えない中国の人たちの逞しさが、リアルに描かれる。ロウ・イエ監督は、2006年に撮った「天安門、恋人たち」で、向こう5年間、映画製作や上映が禁止となる処分を受けている。それでもなお、外国資本を得て、「スプリング・フィーバー」や、「パリ、ただよう花」を撮っている。その気骨、製作意欲、手腕は尋常ではない。本作は、原作のビー・フェイユィが多くの文学賞を受けていることもあってか、一部削除されたが、中国の検閲をパスしている。

 マッサージ院に、さまざまな人物が行き交う。そして、それぞれの人生が、大きな転機を迎えることになる。どのような局面に出会っても、なんとか、生きていこうとする。


 血が飛び散る。激しいベッドシーンもある。中国映画らしくもあり、らしくもない。やはりこれは、ロウ・イエ監督の映画だろう。小難しいことはない。いろんな人生があることに共感できる。笑えるシーンも多々。マッサージ師たちや、とりまく人物たちの言動からは、人生を生きぬくための多くのヒントが得られると思う。社会と人間への、深い観察が潜んだ映画である。


 最近、「映画と歩む、新世紀の中国」(晶文社)という著書を出された、北京在住の知人の多田麻美さんが、同書のなかで「ブラインド・マッサージ」について、鋭い指摘をされている。

 “「見えない」こと、「聞こえない」ことは、社会生活を営む場合、どう考えても不便には違いない。でもそれは、「健常」とされる者たちが社会のあり方、とくに価値体系を決めてしまったからだ。だが、障害者には障害者ならではの社会の捉え方、価値体系があっていいのではないか。本作を観ると、そんな疑問が、脳裏をよぎる。”

 まことに言いえて妙。現代中国の映画事情を知る上でのすぐれた一冊と思う。

●Story(あらすじ)
 シャオマー(ホアン・シュエン)は、幼いころに交通事故にあい、視力をなくす。医師は、いつか回復すると診断するが、いっこうに視力は回復せず、シャオマーは成人する。自殺まではかったシャオマーだが、盲目でも暮らしていけるよう、マッサージ師のスキルを身につけている。

 南京でマッサージ院を営むシャー・フーミン(チン・ハオ)は、生まれたときから目が見えない。シャーは快活な性格で、副院長のチャンともども、10人ほどのマッサージ師を抱えて、
その経営はうまくいっているようだ。ある日、シャオマーは、シャーのマッサージ院に雇われる。

 シャーは、結婚するのが夢で、友人のつてで見合いを続けているが、金はあっても、視覚障害のせいか、なかなかうまくいかない。

 新人の女性マッサージ師ドゥ・ホン(メイ・ティン)が仲間に加わる。ドゥ・ホンは、客から美人だとの評判をもらうが、目の見えないドゥ・ホンにとっては、美人であっても、あまり意味がない。シャーは、ドゥ・ホンが美人との話を耳にして、興味を示す。

 そんなころ、マッサージ院に、シャーの友人ワン(グオ・シャオトン)と、その恋人であるコン(チャン・レイ)が、深圳から駆け落ち同然でやってくる。まだ幼いコンの体から放たれる香りに、若いシャオマーは魅せられてしまう。シャオマーは、もはや自慰行為では収まらないほどに、その欲望があふれている。

 そんなシャオマーを見た同僚が、シャオマーを風俗店に誘う。同僚は、マッサージ院で演芸を披露する。快板が得意で、みごとな指さばきと語りを聴かせる。

 シャオマーは、風俗店のマン(ホアン・ルー)とねんごろになる。これが人生の大きな転機となることに、シャオマーは気づかないまま、マンにのめりこんでいく。

 ワンは、弟の作った借金を返済するために奮闘する。

 さまざまなマッサージ師が働いている。出入りする人も含めて、それぞれの人生は、大きな転機があるけれど、今日も明日も続いている。(文・二井康雄)

<作品情報>
「ブラインド・マッサージ」

2017年1月14日(土)より、アップリンク渋谷、新宿K’s cinemaほか全国順次公開
公式サイト

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