トッド・ソロンズの子犬物語 【今週末見るべき映画】

2017年 1月 13日 08:00 Category : Art

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 小さいころ、大きなシェパードに噛みつかれたことがあった。ひどい傷ではなかったが、犬にはいまだトラウマ。あまり好きではない。ところが、映画では、犬がまるで人間以上に、すぐれた芝居をすることが多くて、その都度、すごいなあ、可愛いなあと思う。映画ではあまり見かけないが、短足で胴長のダックスフントなどは、見るからに可愛いと思う。


 昨年の暮れ、ウィンナードッグ(映画の原題)と呼ばれているダックスフントが登場する映画「トッド・ソロンズの子犬物語」(ファントム・フィルム配給)を見た。タイトルからは、ほのぼのとした、人間と犬とのハートウォーミング・コメディをイメージするが、とんでもない。タイトルは、「トッド・ソロンズの子犬物語」である。トッド・ソロンズである。デビュー作の「ウェルカム・ドールハウス」では、分厚いメガネをかけた、あまりパッとしない女の子を通して、人生の悲惨さを描いた。その後、「ハピネス」でも、三姉妹を通して、人間の心の暗部をえぐったトッド・ソロンズである。ハートウォーミングであるはずはない。まるで身勝手な人間にひきずりまわされる、哀れともいえるダックスフントが登場する。


 4つのエピソードからなる。仲の冷えきった夫婦とがんに侵されている少年。ほどほどの美人なのに不器用な女性と薬物中毒の男。シナリオ学校で教えている、売れない脚本家。孫娘からお金を無心され続けている偏屈な老女。ダックスフントは、こういった人たちと出会い、別れ、アメリカじゅうを引きずり回される。

 脚本もまたトッド・ソロンズ。いささか誇張したセリフ、皮肉な展開、最後のどんでん返しまで、その奥深い人間観察に、唸ってしまう。キャスティングが妙。ジュリー・デルピー、グレタ・ガーウィグ、ダニー・デヴィート、エレン・バースティンが、四人四様、短い出番ではあるが、濃密な演技を披露する。


 もはや純文学。犬の登場する4編の優れた短編小説を味わっているかのよう。映画はラスト近く、三つのシーンがある。これを見て、笑うか、泣くか、考え込むかは、見る人次第。

 昔、ロベール・ブレッソン監督、アンヌ・ヴィアゼムスキー主演の映画「バルタザールどこへ行く」を見たが、おそらくトッド・ソロンズは、この映画を下敷きにしたのではないかと思った。バルタザールと名付けられたロバの受難を、キリストの受難にたとえたような映画だった。案の定、資料のなかでトッド・ソロンズが言っている。「手本としたのは、『バルタザールどこへ行く』(1964)や『ベンジー』(1974)のような作品だ。この映画は、2つの作品の中間にあると思う」と。


 おそらくアメリカのメジャーでは撮れないようなたぐいの映画である。ブラックな笑いというオブラートをかぶせて、人間存在の暗部をえぐり出す。だからこそ、トッド・ソロンズの映画は、光り輝いていると思う。

●Story(あらすじ)

 第1話。すでに仲の冷えきった夫婦がいる。まだ幼い息子レミ(キートン・ナイジェル・クック)は、小児がんに侵されている。父親のダニー(トレイシー・レッツ)は、息子へのサプライズとして、一匹の牝のダックスフントを連れてくる。レミは、ダックスフントをウィンナードッグと呼び、うれしそうである。妻のディナ(ジュリー・デルピー)は、夫に「くそおやじ」と言い放つほどで、犬が家族になることに、いい顔をしない。ダニーはレミに、犬のしつけの必要性を説き、ディナは、犬の避妊や、生き物には寿命があることなどを教える。

 両親がヨガに出かける。レミは、グラノーラ・バーを犬に与える。当然、犬は、ひどい下痢を起こす。もう、あちこちが排泄物だらけ。ついに犬は、安楽死させるために動物病院に連れていかれる。

 第2話。獣医の助手をしているドーン(グレタ・ガーウィグ)は、あまりにも可愛い犬を見て、手術寸前のちょっとした隙に、犬を病院から連れ出して、飼うことにする。犬の下痢がまだ続いているらしく、ドーンは、犬にドゥーディ(うんち)と名付ける。ほどほどの美人なのに、何かと不器用なドーンは、ある日、ドッグフードを買いに出かける。そこでドーンは幼なじみのブランドン(キーラン・カルキン)と出会う。ブランドンは麻薬に手を出しているようだが、ドーンは、ブランドンに悪い印象を覚えない。

 ブランドンが、犬といっしょにオハイオまで行かないかと誘う。ブランドンは、兄の家にたどり着く。兄とその嫁は、ダウン症らしいが、くわしくは分からない。ドーンはこの夫婦に犬を譲る。

 88分の映画なのに、休憩の表示が出て、カントリーふうのバラードで「ウィンナードッグの歌」が歌われる。

 第3話。売れないシナリオ作家のデイブ(ダニー・デヴィート)は、ニューヨークのシナリオ学校で教えている。いつのまにか、犬はデイブに飼われている。デイブは消極的な授業ばかりで、学校や学生たちにも評判が悪く、落ち込んでいる。犬と運動をかねて散歩していると医者に言うが、そんなことは運動にならないと言われる。

 やっと、書いた脚本がドリームワークスに渡したとの知らせを受けるが、まったく音沙汰はない。デイブは、講演に来た新人監督にもバカにされ、学生たちからも時代遅れと罵倒されている。

 やけになったデイブは、犬を使って、とんでもないことを仕掛ける。

 第4話。偏屈な老女のナナ(エレン・バースティン)は、黒人のメイドと暮らしている。そこに孫娘のゾーイ(ゾーシャ・マメット)が、黒人の彼氏のファンタジー(マイケル・ショウ)を連れて、やってくる。ゾーイの目的は、アート作家であるファンタジーの個展を開くためのお金の無心である。

 犬は、キャンサー(がん)と呼ばれ、ナナのかたわらにいる。ゾーイは、祖母から小切手を受け取ると、すぐに家を出ていく。

 ナナの脳裏によぎることとは……。(文・二井康雄)

<作品情報>
「トッド・ソロンズの子犬物語」
(C)2015 WHIFFLE BALLER,LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

2017年1月14日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

公式サイト

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