島々清しゃ 【今週末見るべき映画】

2017年 1月 20日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 昨年の第29回東京国際映画祭の「日本映画スプラッシュ」部門で上映された「島々清しゃ」(東京テアトル配給)が一般公開となる。


 映画のタイトルは、久米仁が作詞、普久原恒勇が作曲した曲名である。宮良康正が唄い、カバーでは、ネーネーズ、夏川りみ、琉球アンダーグラウンド、ハワイアンのテレサ・ブライトなどが唄っている。


 「清しゃ」と書いて「かいしゃ」と読む。清しゃとは、美しいという意味。琉球王朝の城跡や、神さまを拝む御願所(うがんじょ)があり、田んぼに夕陽が映えて、畑では草を焼く白い煙があがる。ざっと、このような詩が唄われる。耳をすますと、心がなごむ。まことに滋味深く美しい歌で、もちろん、映画のなかに、何度か出てくる。


 舞台は、沖縄の那覇から西の慶良間島。絶対音感の一種なのか、少しでも音のズレがあると頭痛のする小学生の少女うみが、三線の名手であるおじいと二人で暮らしている。うみとの確執を抱える母親は、遠く離れて暮らしている。特殊な耳のせいか、うみには友だちらしい友だちがいない。

 ある夏の日。島の小中学校で開催されるコンサートに、東京からヴァイオリニストの祐子がやってくる。祐子と出会ったうみは、フルートを吹き始め、学校の吹奏樂部に参加する。それまで、かたくなに心を閉ざしていたうみに、少しずつ変化が生じる。祐子もまた、うみのおじいたちに出会い、都会でのすさんだ気持ちが、じょじょに癒されていく。


 ゆったり、のんびり。島の美しい自然に、心に沁み入るような音楽。登場人物同様、観客もまた、自らの人生を見つめ直すきっかけを得ることだろう。

 セリフがいい。「いつまでも逃げていたら、望みは叶えられない」、「人間、生きているだけで80点」。

 このほど、ある映画の専門雑誌で、昨年の日本映画のベスト10が発表された。1位はアニメーションである。ことそれほど、実写の映画に優れた作品が少なかった、ということだろう。ヒットした原作に頼らざるを得ない企画の貧困さ、優れたオリジナル脚本の少なさ、説明過剰な作り、俳優層の薄さ……。嘆いても、仕方がない。


 「島々清しゃ」のオリジナル脚本は、「ナビィの恋」や「ホテル・ハイビスカス」で音楽を担当した磯田健一郎である。音楽への熱い想いが、脚本の隅々にある。本作の音楽もまた、担当している。使われる音楽は沖縄の音楽だけではない。バッハの「G線上のアリア」、フランクの「ヴァイオリン・ソナタ」、イングランド民謡の「グリーンスリーヴス」といった西洋音楽、さらに、沖縄音楽が吹奏楽で奏でられるクライマックスが用意されている。

 主役の少女うみに扮した伊東蒼のきっぱりとした表情がいいし、なにより、目力がある。感情をストレートに出さない難役を、懸命にこなす。昨年に公開された「湯を沸かすほどの熱い愛」にも出演、キャリアはすでにじゅうぶんな子役だ。うみの祖父、おじい役は金城実。沖縄音楽の世界では著名な、三線弾き、唄い手で、映画でも見事な三線と歌唱を披露する。ヴァイオリニストの祐子役は安藤サクラ。「かぞくのくに」、「その夜の侍」、「0.5ミリ」、「百円の恋」などで、いまや日本を代表する女優だ。

 やたら叫ばない。多くはないセリフ。過剰でない説明。ことさら泣かせようとはしない。いずれも映画表現の重要なポイントである。監督は新藤風。抑制のきいた演出に、俳優が応える。新藤風は、新藤兼人監督の孫娘である。新藤兼人の「石内尋常高等小学校 花は散れども」では、監督の健康管理を担当し、晩年の傑作「一枚のハガキ」では、監督補佐を務めた。自身も、「ナビィの恋」などの助監督を経て、「LOVE/JUICE」、「転がれ!たま子」を監督している。本作でも、どこか、祖父の監督した大傑作「裸の島」をほうふつとする。血のなせる技に加えて、現場での研鑽が結晶したと思う。


 新藤風監督には、試写でなんどかお目にかかっていたが、昨年末、話を聞く機会があった。「島々清しゃ」は、 祖父、母親、娘の親子三代の映画でもある。「新藤家三代がモデル」と言う。自らの身上が重なる。フェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」に出てくる映画監督がムチをふるうように、「映画監督は、猛獣使いであれ」と考えている。新藤風監督は、「胸をはって自分として生きているよ、そうでないおとなをはげましたい」と結ぶ。

 どんなに辛い人生でも、いざとなれば逃げないで、一歩を踏み出すこと。そして、生き抜いていく。静謐な作りに、絶妙のアンサンブル。新藤風は、これからも期待できる映画監督のひとりだろう。

●Story(あらすじ)
 沖縄の慶良間島。耳当てをした9歳の少女うみ(伊東蒼)は、海を眺めている。空に飛行機が飛んでいる。「アメリカの飛行機、ちんだみ狂っている」と叫ぶ。思わず、耳当ての上から耳を抑える。ちんだみとは、沖縄の三線の調弦のこと。飛行機は、異常な金属音を出して墜落する。うみは、絶対音感の持ち主らしく、調子の狂った音に敏感すぎて、いつも耳当てをしている。

 そのころ、東京から女性ヴァイオリニストの祐子(安藤サクラ)が、慶良間小中学校で開催されるコンサートのために、島にやってくる。祐子は、学校の音楽室を訪ねる。うみは、吹奏楽部員と争っている。うみは、吹奏楽部員の出す音を、「ちんだみが狂っていて、気持ちが悪い」と指摘する。うみは、トランペットを吹いている幸太と、取っ組み合いの言い争いになる。うみは、机にひじをぶつけてしまう。祐子はうみのひじに絆創膏を貼ってやる。「ちんだみとはチューニングのこと?」と聞く祐子に、うみは言う。「ちんだみは、ちんだみ。合わさんと音は悲しむ」と。校長が現れても、うみは挨拶もせず、立ち去ってしまう。「人づきあいが苦手な子だ」、と校長は祐子に言う。

 祐子は、コンサート会場の体育館で、音響効果を確認している。うみは、じっと祐子を見つめている。うみは、祐子を海に連れていく。バッハの「G線上のアリア」を弾く祐子のヴァイオリンを、うみはじっと聴いている。「波の音と同じさ」とうみ。祐子は、沖縄の曲「谷茶前(タンチャメー)」を弾くが、うみは耳をふさいで、しゃがみこんでしまう。

 うみは、祐子をおじい(金城実)に会わせる。おじいは祐子に、三線と歌で「谷茶前」を披露する。祐子はうみに、「三線は弾かないのか」と聞いても、「弾かん」とそっけない。

 コンサートの日。ピアノの調律を心配する祐子だが、なんとかなると演奏会が始まる。聴いていたうみが叫ぶ。「ピアノのちんだみがおかしい」と。

 やがて、祐子はおじいから、うみの母親さんご(山田真歩)との確執を知らされる。うみは、祐子のすすめでフルートを吹き、なんとか吹奏楽部に入る。祐子たちは、おじいとの演奏会を企画、「島々清しゃ」を演奏することになる。おじいは、この演奏会を、沖縄にいる娘のさんごに見せようと、電話で知らせるのだが……。(文・二井康雄)

<作品情報>
(C)2016「島々清しゃ」製作委員会

2017年1月21日(土)、テアトル新宿ほか全国ロードショー
公式サイト

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