ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男 【今週末見るべき映画】

2017年 2月 3日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 1862年のアメリカ、ミシシッピ州ジョーンズ郡。南北戦争のまっただ中、南軍の衛生兵だったニュートン・ナイトの、限りない自由への闘いを描いた「ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」(キノフィルムズ、木下グループ配給)は、骨太で、アメリカの近代史に埋もれた男ニュートン・ナイトの奮闘を描いて、2時間20分の長尺をあきさせない。ニュートンは、南軍、北軍にも組みせず、1864年、奴隷の黒人たちや、貧しい農民、脱走兵たちと、ジョーンズ自由州を宣言する。


 映画の背景になるのは、1861年に始まった南北戦争である。奴隷制度や貿易制度をめぐって、アメリカの北部と南部が対立、南部の11州が、合衆国を離脱、南部連合を結成する。同じ年に大統領に就任したリンカーンは、脱退、離脱は無効だと演説する。南軍が攻撃をしかける。当初、有利だった南軍だが、1863年、ゲティスバーグの戦いで、南軍は敗退する。

 当初、奴隷を所有していないニュートンには、戦いに加わる理由はなかったが、戦争に反対を唱えると、処刑されるほどの時代だった。やむなく、ニュートンは衛生兵として参戦、負傷しても将校優先の、悲惨な戦場に立ち会うことになる。


 黒人奴隷に関する法で、20人以上の奴隷を所有する家族の長男は兵役免除となる。40人だと、次男もまた兵役免除となる。ニュートンは、この法に反発、まだ未成年の甥を戦場で亡くしたこともあって、南軍から脱走、「沼」といわれている湿地で、逃亡した奴隷たちや貧しい農民たちと出会う。

 やがて、ニュートンたちは、南軍の理不尽な収奪、暴挙に反抗し、ジョーンズ自由州を結成することになる。

 冒頭から、すさまじい戦闘シーンが連続する。血があふれる。ちょいと正視するのが苦痛だが、未来はともかく、かつての、どの時代のどの戦争も、似たようなものだろう。

 やがて、映画は、ニュートンのたどった道のりを、静謐に、丁寧に映していく。間に、ニュートンの子孫の、黒人と白人の婚姻をめぐっての裁判シーンが、何度か挿入される。


 つい先頃見た、「ラビング 愛という名前のふたり」でも、1958年当時、白人と黒人との結婚が違法だった時代が描かれていた。いまはといえば、法律上では自由とはいえ、白人の有色人種への、根強い偏見が残っていると思われる。この1月に大統領になったトランプの一連の言動、大統領令などに接すると、いまなお、アメリカは、よほどの理由があるのだろうか、オバマの後任というのに、偏見ある施政者を選ぶものかと思う。白人以外の人口が増えているにも拘わらず、である。

 ニュートンは、白人なのに、黒人たちとともに、白人に復讐する。降伏した家族を縛り首にした南軍の騎兵隊の司令官を絞殺する。ニュートンは、アメリカの歴史でも、特異な存在かもしれない。

 ニュートンは、自由州を宣言する際、「自分の手で育てたものは自分のものだ」と言い、仲間に新約聖書の「ガラテヤの信徒への手紙」の第6章を読ませる。手元にある聖書にはこう書いてある。「思い違いをしてはいけません。神は、人から侮られることはありません。人は、自分の蒔いたものを刈り取ることになるのです」。そして、ニュートンは言う。「奪われたとうもろこしを取り返そう」と。


 ニュートンを演じたのは、マシュー・マコノヒーだ。つい最近では、「ダラス・バイヤーズクラブ」で、実在したHIVの患者を力演、アカデミー賞の主演男優賞を受けている。ニュートンの事実上の二番目の妻となるレイチェル役は、ググ・ンバータ=ローで、読み書きの出来ない役どころを達者に演じる。

 監督は、「カラー・オブ・ハート」や「シー・ビスケット」を撮ったゲイリー・ロス。手堅い演出で、ニュートンの人となりを、丁寧に造型したと思う。

 ちなみに、ジョーンズ自由州に4つの原則がある。1.貧富の差を認めない。2.何人も他の者に命令してはならない。3.自分が作ったものを他者に搾取されることがあってはならない。4.誰しも同じ人間である。なぜなら皆2本足で歩いているから。


 たとえ、国がちがっても、どこにもあてはまることだろう。アメリカの大統領や日本の首相に、まっさきに見てもらいたいような映画だ。

●Story(あらすじ)

 1862年10月から1876年。ミシシッピ州ジョーンズ郡。南北戦争のさなか、ニュートン・ナイト(マシュー・マコノヒー)は、衛生兵として戦線にいる。負傷した兵士を運びながら、将校の手当が優先されることに憤りを覚えている。新しい法で、奴隷を20人所有する農園の長男は兵役免除、40だと次男もまた兵役免除になると聞いたニュートンは、さらに怒りがこみあげてくる。まだ未成年の甥のダニエル(ジェイコブ・ロフランド)もまた、南軍の兵士として戦線にいる。ダニエルが、北軍の銃弾を受けて、死ぬ。ニュートンの怒りが爆発する。ニュートンは、ダニエルの遺体を抱えて、軍を脱走し、母親のもとに届ける。

 ニュートンの子孫が、白人と黒人の血を引く者どうしが結婚できるかどうかをめぐっての裁判に、被告として参列している。

 南軍の騎兵隊の徴収班が、民家から服や毛布、家畜を奪っていく。銃を構えたニュートンたちは、騎兵隊を追い払うが、ニュートンは、脱走兵として追われることになる。ニュートンは、妻のセリーナ(ケリー・ラッセル)と生まれたばかりの赤ん坊と別れて、身を隠すことになる。

 ニュートンは、騎兵隊に追われる。犬に足を噛まれてしまう。ニュートンは、酒場の女主人サリー(ジル・ジェーン・クレメンツ)の手引きで、ひとまず、「沼」とよばれているところに駆け込む。案内人は、イーキンズ(ジョー・クレスト)の使用人で、かつて、ニュートンの赤ん坊が高熱を出した折り、看護してくれた女性レイチェル(ググ・ンバータ=ロー)である。

 沼は、逃亡した奴隷たちのいわば隠れ場で、多くの奴隷たちが、ひっそりと暮らしている。レイチェルは、モーゼス(マハーシャラ・アリ)と名乗る男に、犬に噛まれた傷の手当を受ける。ニュートンは、モーゼスたちと心を通わせていく。

 ニュートンの子孫の裁判は、継続している。わずかでも黒人の血を引くニュートンの子孫は、白人女性との結婚は認められないようだ。

 モーゼスは、たびたび脱走を企てたため、先のとがった首輪をはめらている。はずそうとすると、大きな音がして、騎兵隊に聞こえてしまう。ニュートンは、銃を手配して、あえて、モーゼスの首輪をはずす。騎兵隊がやってくる。迎え撃つニュートンたち。黒人たちは、自分たちのために白人を撃ったニュートンに、尊敬の念を抱くようになる。

 1863年。ニュートンたちの反乱軍のメンバーは、増え続けている。かつて、南軍でニュートンとともに戦ったウィル(ショーン・ブリジャース)や、ジャスパー(クリスストファー・ベリー)も仲間に加わる。南軍の家財道具を奪われた農民たちも、反乱軍に集結する。

 ニュートン率いる反乱軍は、奪われた物資を奪い返す。南軍は、農場や家を焼き払い、降伏を迫る。農場を守るために、降伏した父親とその息子たちは、吊し首になる。ニュートンたちの反撃、復讐が始まる。

 1864年3月、反乱軍は、南軍の司令部のあるエリスビルを占拠、近くの3つの郡も制圧する。ニュートンたちは、北軍の将軍に、300挺の銃や大砲、兵士を要請するが、届いたのは銃が100挺のみ。ニュートンは、南にも北にも属さない、ジョーンズ自由州の設立を宣言する。

 1865年6月。南北戦争は終結するが、ニュートンたちの真の闘いは、まだ始まったばかりである。

<作品情報>
『ニュートン・ナイト/自由の旗をかかげた男』
2017年2月4日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次ロードショー
(C)2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

公式サイト

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