ラ・ラ・ランド 【今週末見るべき映画】

2017年 2月 23日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 今年のアカデミー賞で、数多くの部門でノミネートされている「ラ・ラ・ランド」(ギャガ、ポニーキャニオン配給)が、アカデミー賞の発表(日本時間2月27日)前の、2月24日(金)公開となる。たぶん、多く受賞することと思う。


 ミュージカル映画である。それも、映画のためのオリジナル・シナリオである。監督・脚本は、「セッシヨン」を撮ったデイミアン・チャゼルではないか。「セッション」では、J・K・シモンズ扮するジャズ教師の指導法をめぐって、日本のプロのジャズ演奏家のひとりが酷評をしていたが、これは映画である。野暮というものだろう。


 「ラ・ラ・ランド」もまた、昔の優れたミュージカル映画に詳しい人たちから、「いまひとつ」の評価が聞こえてくる。「ラ・ラ・ランド」で、唄い、踊るのはライアン・ゴスリングとエマ・ストーンである。このコンビを、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャース、ジーン・ケリーとレスリー・キャロンなどと比べて云々(うんぬんと読む。でんでんではない)。これまた野暮というものである。エマ・ストーンは、ブロードウェイのミュージカル「キャバレー」のサリー役を経験している。これまた、ジュディ・デンチと比べるのも粋ではない。


 「ラ・ラ・ランド」は、典型的な「ボーイ・ミーツ・ガール」ものである。映画スターを目指す女性と、自分のジャズクラブを持つ夢を抱くピアニストの男性が出会う。恋に落ちる。当然、唄い、踊る。ミュージカル映画の王道からはずれず、きちんと、誠実に、伝統にのっとる。ミュージカル映画に限らず、多くの映画へのオマージュがある。ストーリーそのものも、お手本になる映画がある。あるシーン、あるショットは、どこかで見たことがある。色彩設計、背景、カップルのダンス、おおぜいでの群舞なども、どこかで見たことがある。セリフにも映画ネタの数々が。

 「ラ・ラ・ランド」を見ていると、多くの映画が脳裏をよぎる。順不同、思いつくままに、作品名、監督名、日本公開年を列挙する。

「ジンジャーとフレッド」フェデリコ・フェリーニ(1986)
「バンド・ワゴン」ヴィンセント・ミネリ(1958)
「水着の女王」エドワード・バゼル(1952)
「ニューヨーク・ニューヨーク」マーティン・スコセッシ(1977年)
「巴里のアメリカ人」ヴィンセント・ミネリ(1952)
「ウエスト・サイド物語」ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス(1961)
「ロシュフォールの恋人たち」ジャック・ドゥミ(1967)
「シェルブールの雨傘」ジャック・ドゥミ(1964)
「スイート・チャリティ」ボブ・フォッシー(1969)
「ブロードウェイ・メロディー」ハリー・ボーモント(1930)
「雨に唄えば」ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン(1953)
「眠れる森の美女」ヴォルフガング・ライザーマンほか(1960)
「踊らん哉」マーク・サンドリッチ(1937)
「ムーラン・ルージュ」バズ・ラーマン(2001)
「カサブランカ」マイケル・カーティス(1946)
「マルホランド・ドライブ」デヴィッド・リンチ(2002)
「グリース」ランダル・クレイザー(1978)
「ワン・フロム・ザ・ハート」フランシス・フォード・コッポラ(1982)
「理由なき反抗」ニコラス・レイ(1958)
「ブギーナイツ」ポール・トーマス・アンダーソン(1998)
「東京流れ者」鈴木清順(1966)……。

 たぶん、きっと、ほかの映画も思い浮かべることだろう。ことそれほど、「ラ・ラ・ランド」は、いわば、優れた映画の「おいしいところ」を受け継いでいるといえる。上記の映画と、「ラ・ラ・ランド」を見比べていただけると、そのつながりが、よくお分かりいただけるはずである。


 さて、本作、冒頭から、驚く。ロサンゼルスのフリーウェイが渋滞している。車がひしめく中、車から降りた人たちが、唄い、踊る。しかも、ワンショット。度肝を抜く。

 音楽の数々が、とても心地いい。ジャスティン・ハーウィッツのスコアが、甘く、優しく、華麗。

 セブ役のライアン・ゴスリングと、ミア役のエマ・ストーンが唄い、踊るときの「ア・ラブリー・ナイト」が絶品。ほかの楽曲もまた、親しみやすい美しいメロディーばかりである。

 細部の凝りようもはんぱではない。セブが敬愛するサックス奏者はジョン・コルトレーンである。ちゃんとポスターが貼ってある。また、セブは、ピアニストのセロニアス・モンクに憧れている。モンクのレコード「ストレート・ノー・チェイサー」に収録されている「ジャパニーズ・フォーク・ソング」(荒城の月)が、セブの好きな曲である。


 上映時間は2時間8分。まるで夢のような時間。文句なく、楽しい。1985年生まれ、まだ若いデイミアン・チャゼル監督の、愛する音楽と映画へ捧げた、恋文のような映画。

 このところ、アカデミー賞作品賞は、2014年「それでも夜は明ける」、2015年「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」、2016年「スポットライト 世紀のスクープ」と、どちらかといえば、アート系、社会派系の作品が受賞している。もちろん、ほかのノミネート作品の質にもよるが、そろそろ、今年は、「ラ・ラ・ランド」が受賞しても何の不思議はない。作品賞ノミネート9作品のうち、まだ3作品しか見ていないが、個人的には「ムーンライト」(4月公開予定)に差し上げたいのだが。

●Story(あらすじ)
 ロサンゼルスのフリーウェイ。大渋滞である。みんなは車から飛び出し、軽快に踊り、唄う。

 冬。田舎から女優になる夢を抱いて、ミア(エマ・ストーン)が、ロサンゼルスにやってくる。ミアは、映画スタジオのカフェで働きながら、あちこちのオーディションを受けている。ふと、ミアは、聞こえてくるピアノの音に誘われて、とあるバーに入っていく。ジャズ・ピアノを弾いているのはセバスチャンことセブ(ライアン・ゴスリング)で、セブは、店長(J・K・シモンズ)の指示通りに演奏しない。店長は、セブをクビにする。ミアは、セブを見る。先日、フリーウェイで、後ろからクラクションをならした男と気付く。

 春。ミアとセブは、何度か、偶然に出会う。セブは、いまどき流行らないジャズピアノを弾き、自分のジャズクラブを持つ夢をミアに語る。ミアもまた、女優になる夢をセブに語る。

 演技の勉強のために、ミアとセブは、「理由なき反抗」という映画を見る約束を交わす。ところが、その日は、ミアは、つきあい始めたばかりのボーイフレンドとのデートの日である。落ち着かないミアの耳に、セブの弾くピアノが流れてくる。ミアは、デートを打ち切って、映画館に向かう。グリフィス天文台のシーンが出てくる。古い映画フィルムが、溶けてしまう。ミアとセブのふたりは、本物のグリフィス天文台に向かう。

 セブは、ミアにアドバイスする。「自作自演なら、オーディションとはおさらばだ」と。ミアは、脚本を書き始める。

 夏。ミアとセブはいっしょに暮らすようになる。ミアは、なんとか脚本を書き上げる。そして、セブのジャズクラブの名前やロゴを考えたりする。ところが、現実は厳しい。レギュラー仕事のないセブには、とてもジャズクラブを作る資金などはない。セブは、友人のキース(ジョン・レジェンド)の誘いで、しぶしぶ、キースのバンドに加わる。キースのバンドは、セブの考えている音楽とは異なるけれど、セブはすべてミアのためとの決心を固める。

 ミアはセブの音楽を聴く。ミアは、「これは、セブの目指していた音楽ではない」と、気付く。キースのバンドは大ブレイクする。セブは、録音やツアーと、急に忙しくなっていく。

 秋。ミアはセブに問いかける。「今のバンドの音楽が好きか」、「夢はどこに行ったのか」と。ミアとセブの仲が、険悪なものになっていく。

 果たして、ミアとセブは、それぞれの夢をかなえることができるのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>
「ラ・ラ・ランド」
(C)2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.


2017年2月24日(金)、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー
公式サイト

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