素晴らしきかな、人生 【今週末見るべき映画】

2017年 2月 24日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 ずいぶん昔、「素晴らしき哉、人生!」という映画があった。フランク・キャプラ監督の、心がほんわかとなる映画で、天使が重要な働きをする。ジェームズ・ステュアート扮するジョージは、会社の経営危機を苦に自殺しようとする。ジョージが自殺をしないようにとの、周りの人たちの祈りが天国に届く。ヘンリー・トラヴァース扮する羽根のない天使ガブリエルが現れ、ジョージのいなかった世界を見せ、今までのジョージの人生が、いかに素晴らしかったをジョージに感じさせる。経営破綻に陥ったジョージの今は、死ぬほど辛いものだろう。しかし、ほかの人たちのさまざまな人生をみると、まんざらでもない。いや、むしろ素晴らしいのである。


 このほど公開の「素晴らしきかな、人生」(ワーナー・ブラザース映画配給)は、一見、「素晴らしき哉、人生!」とほぼ同じタイトルだが、日本語の表記はちと違う。では、リメイクかといえば、そうでもない。リメイクほど忠実ではないけれど、骨格、結構、テーマが似ている、といったところだろうか。


 「素晴らしき哉、人生!」の原題は「イッツ・ア・ワンダフル・ライフ」で、フィリップ・ヴァン・ドーレン・スターンの原作「ザ・グレイテスト・ギフト」を、監督のフランク・キャプラら3名が脚本にした。だが、「素晴らしきかな、人生」の原題は「コラテラル・ビューティー」で、「死と隣り合わせにある美しさ」といったほどの意味で、これは、製作者でもあるアラン・ローブのオリジナル・シナリオである。


 広告業界の最先端を走っていた男ハワードが、愛する6歳の娘を亡くし、深い喪失感に襲われる。愛好しているドミノが、次から次へと倒れるように、仕事もうまくいかなくなる。男のビジネスのモットーは、「愛、時間、死」である。会社で檄を飛ばす。「愛、時間、死は、すべての人間に結びついている。我々は、愛を求め、時間を惜しみ、死を怖がる」と。


 ハワードは、仕事を投げ出してしまう。困ったハワードの同僚たちは、ハワードが、「愛」、「時間」、「死」に宛てて、手紙を書いていることを知る。そして、ハワードが立ち直るよう、ある事を思いつく。3人の俳優を使って、ハワードに「愛」、「時間」、「死」について、語りかけよう、と。

 ハワード役はウィル・スミス。コミカルな演技のうまい俳優と思っていたが、なかなかどうして。シリアスな役柄も軽快にこなす。同僚で共同経営者ホイット役はエドワード・ノートン。顧客担当の重役クレアにはケイト・ウィンスレット。顧問のサイモンにはマイケル・ペーニャ。さらに、雇われた俳優役で、「愛」役のエイミーを演じるのはキーラ・ナイトレイ。「時間」役のラフィにはジェイコブ・ラティモア。「死」役のブリジットをヘレン・ミレンが演じる。まことにぜいたくなキャスティングである。


 雇われた俳優たちが、ハワードに語りかけるセリフのどれもが、滋味深く、輝いている。まるで、天使がハワードの前に降りたったように、諭し、謎をかけ、説得し、勇気づける。

 多かれ少なかれ、人生の挫折は、長く生きていれば、必ずといっていいくらい、経験するものである。その時、どう対処するか。天使は、いつもほほえんでくれるとは限らない。要はこころの持ちよう、だろう。

 落語の怪談噺に「もう半分」がある。一升の酒を呑む。5合呑んだところで、「もう半分呑んでしまった」と思うか、「まだ半分しか呑んでいない」と思うか、の違いだろう。


 身の不幸を嘆いてもしかたがない。もっともっと不幸な人がいる。そう思うと、我が身の不幸などは、どうということはない。人生は、素晴らしいはずである。

 心地いい涙と笑い。確実に、フランク・キャプラの世界を受け継いでいると思う。久しぶりに、アメリカ・メジャーのウエルメイド作品にお目にかかった。監督は、「プラダを着た悪魔」、「31年目の夫婦げんか」を撮ったデヴィッド・フランケルである。寓意を込めつつ、肯定する人生こそ、素晴らしい人生につながることを語り、じっくりと、優しく、人生の意味を映画で示してくれた。

●Story(あらすじ)
 広告代理店で辣腕をふるっているハワード(ウィル・スミス)は、ニューヨークの雑踏を自転車で颯爽と駆け抜けていく。今日も仲間たちを前に持論を展開する。「広告は、その商品のいいところを、人に分かりやすく伝えるのだ。人というものは、愛を望み、時間を惜しみ、死を恐れる」と。仲間たちは大きな拍手をハワードにおくる。

 3年後。ハワードのまだ幼い娘が不治の病で亡くなる。なかば自暴自棄になったハワードは、好きなドミノ遊びに打ち込むだけで、まったく仕事が手につかない。眠れない夜が続く。自転車で深夜のニューヨークを走る。休みには、犬の公園で、ただ犬を眺めるだけの日々を過ごしている。

 会社の共同経営者であるホイット(エドワード・ノートン)、顧客担当役員のクレア(ケイト・ウィンスレット)、顧問のサイモン(マイケル・ペーニャ)の3人は、そんなハワードをみるにつけ、こころを痛めている。心配のあまり、3人は探偵を雇い、ハワードの行動を逐一、監視することにする。

 3人は、 ハワードが持論でよく引き合いに出す言葉「愛」、「時間」、「死」に宛てて、手紙を書いていることを知る。3人は、「愛」、「時間」、「死」について、それぞれに俳優を雇い、「愛」、「時間」、「死」を演じさせ、ハワードに語りかけるよう画策する。

 ホイットは「愛」役のエイミー(キーラ・ナイトレイ)と、クレアは「時間」役のラフィ(ジェイコブ・ラティモア)と、サイモンは「死」役のブリジット(ヘレン・ミレン)とコンビを組み、どのようにハワードに接近するか、いわば口裏合わせの演技指導を始める。

 ハワードの前に、突然、エイミー、ラフィ、ブリジットが現れ、愛について、時間について、死について、語りかける。突然のおかしな出来事が相次ぎ、ハワードは、困惑、動揺する。やがて、たびたびハワードの前に現れる美女エイミー、青年ラフィ、初老の女性ブリジットと接するうちに、ハワードのこころに微妙な変化が訪れるようになる。

 ハワードは、子どもを亡くした親たちの集まりに顔を出すようになる。そこで、ハワードは、同じ境遇の女性マデリン(ナオミ・ハリス)と知り合う。

 悩み苦しんでいるのは、ハワードだけではないことが分かってくる。仲間であるホイット、クレア、サイモンもまた、それぞれの問題を抱えている。そして、ホイット、クレア、サイモンが、重要なことをハワードに話し始める。

 ハワードたちは、はたして癒されるのか。ハワードたちの会社はどうなるのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>
「素晴らしきかな、人生」
(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.,
VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT, LLC

2017年2月25日(土)、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
公式サイト

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