人類遺産 【今週末見るべき映画】

2017年 3月 3日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 次々と、あちこちのさびれた場所や、廃墟のような建造物の名残りが映し出される。どこがどこだか、分からない。建造物は、ある目的をもって、人間が人間のために建造したものだろう。そこは、かつて、人間が暮らし、働き、遊び、祈りを捧げた場所と思われる。いまは、人間は、ひとりも住んでいないし、集まってもこない。


 映画「人類遺産」(エスパース・サロウ配給)には、だから人間はひとりも、登場しない。映画の分類上ではドキュメンタリーと思うが、映像からは、かつて人間がこの場にいたと思われるシーンが多く、ここになんらかのドラマがあったに違いない。いわば、劇映画か、ドキュメンタリーかの区別は、かなり曖昧である。どちらかの区別などは、じつはどうでもいいこと。要は、映像を見続けていて、観客はいったい何を思い、何を感じるかである。


 つい最近まで、たくさんの人が住んでいたと思われる町の様子が映しだされる。雨が降っている。自転車置き場がある。日本語の看板が出ている。自転車が一台、転がっているが、ほかの自転車は、整然と置き場にある。つい最近まで営業していたらしいマクドナルドやコンビニが出てくる。やっと、そうか、ここは、福島の原発近くの町ではないか、と気付く。


 どこかの遊園地が廃墟になっている。コースターらしい遊具の鉄骨が、残骸としてそそり立っている。


 何が行われていた場所なのか、天井の高い、円形劇場のような、大きなホールがある。いったい、どこだろう。すっかり荒れ果てていて、もったいない限りだ。


 島がぽつんと映っている。かつて炭坑の島として栄えた長崎の端島、通称軍艦島の廃墟と分かる。多くの人が住んでいたのだろう、鉄筋らしい集合住宅の名残りが見てとれる。

 町ごとそっくり、いったんは海に沈み、廃墟として、また地上に現れたような町がある。どこだか、分からない。荒涼とした光景だ。

 かつて教会だったと思える建物は、放置され、荒れ果てたまま。祈りを捧げた人たちはどこへ行ってしまったのか。


 SF映画に出てくるような、巨大な宇宙船を思わせる建造物が出てくる。これまた、すでに廃墟となっている。

 天井から多くのロープがぶらさがり、ロープの先には、それぞれ、籠のようなものが付いている。いったい、何のためのロープ、籠なのか分からない。すでに、荒れ果てている。

 ナレーションはない。字幕も出ない。雨の音や、木々をわたる風の音が聞こえてくるだけ。ここが、どのような場所なのかの説明は、いっさい、ない。朽ち果てようとしている建物の内部や、すでに朽ち果てた場所の全景が映し出されるだけである。

 見て、疑問がよぎる。人間は、何のためにこういった建造物を作り、いかなる理由があったかは分からないが、これを棄てて、いったいどこに行ってしまったのか。見て、思う。ひたすら、経済成長を求め、文明を生み、あらゆる欲望を満たし、奢り高ぶった結果ではないか、と。


 天変地異の結果もあるだろう。自然は、いつ、どういった形で、人間の作り出したものに襲いかかってくるか、いまのところ、誰にも分からない。この教訓は、私たち人間は、すでに何度も経験しているはずだろう。

 監督は、「プリチャピ」、「いのちの食べ方」、「眠れぬ夜の仕事図鑑」などを撮ったニコラウス・ゲイハルターである。やはりこの人か、と思う。ゲイハルターの視点に、いささかのブレはない。ゲイハルターは、資料のなかで言い切っている。「『人類の歴史を批判的に振り返る』というテーマに合う場所を見つけることが重要だ」と。

 4年かけての取材、撮影、編集である。廃墟、遺跡、文明崩壊の名残りなどは、これから先、永遠に増え続けることと思う。これは、奢る人間と、現代という時代への、ゲイハルターの高らかな警鐘であり、優れた文明批評というべきだろう。(文・二井康雄)

<作品情報>
「人類遺産」
(C)2016 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH

2017年3月4日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー
公式サイト

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