おとなの事情 【今週末見るべき映画】

2017年 3月 17日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 アイデアが秀逸、イタリア映画である。スマホが重要な役割を果たす。3組の夫婦に、男がひとりの計7人の男女が、ホームパーティに集まる。話の流れで、ゲームふうの座興で、お互いのスマホを、みんなに見せ合うことになる。さて、どうなるか。


 「おとなの事情」(アンプラグド配給)は、それぞれが抱える秘密、とりあえずは伏せておきたい秘密が、友人たちのあいだで公になっていく。そこで、露わになるのが、まさに人間という存在である。

 美容整形外科医のロッコ、法律事務所に勤めるレレ、タクシー運転手のコジモ、臨時教師のペッペの4人は、古くからの親友である。ロッコは、17歳になる娘との仲はいいが、心理カウンセラーをしている妻エヴァの父親には、まったく信頼されていない。

 レレには愛人がいて、毎晩、決まった時間に愛人から写真が送られてくる。妻のカルロッタとの間に、まだ幼いふたりの子どもがいる。いまはレレの母親と同居していて、夫婦仲がうまくいっているように見せかけているが、実は、すでに冷めている夫婦である。


 コジモは、タクシーの運転手をやめて、新しい仕事を探している。つい最近、動物病院の女医ビアンカと結婚したばかりなのに、会社の無線係の女性から、いつも意味ありげなメールが届く。ビアンカはビアンカで、もとの彼から、いろんな相談のメールが届いている。

 ペッペは離婚歴があって、いまは独身。婚約者がいて、パーティに同伴することになっていたが、風邪のために参加できない。なぜかペッペには男名前で、メールが届く。

 ロッコは、自慢の手料理を作る。みんなが集まってくる。7人は、それぞれのスマホにかかってくる電話や、メールを共有する「ゲーム」を始める。ちゃんとした、仕事の電話も入ってくるが、こればかりではない。それぞれがそれなりの秘密を持っている。電話、メールが入るたびに、ひとつ、ひとつ、秘密が公になる。夫婦の会話が、徐々に険悪なものになっていき、予想もつかない展開となる。

 計算されつくしたかのような、軽快なテンポの会話劇である。インテリで、そこそこ裕福な人物たちである。だからこそのドタバタぶりに、愚かな人間心理の深奥をかいま見るようで、いっそ痛快である。


 月食の夜である。太陽のせいでできる地球の影のなかに月が入って、月面の一部や全部が欠けて見える。夫が妻に、妻が夫に、独身男が仲間に、いずれ分かることでも、とりあえずは、隠しておきたいことがある。月食は隠喩で、隠すこと、だろう。映画のタイトルは、「月食」でも構わないが、原題は、「あかの他人たち」を意味する。夫婦といえども、しょせんは他人同士、なのだろう。

 いつもの日常が、ささいなことで修羅場となる。裏切り、誤解、すれ違いがある。いったい、人間同士の信頼とは何か。シニカルな視線で人間を熟視した監督は、パオロ・ジェノヴェーゼで、脚本はジェノヴェーゼを含めて5名の共同執筆になる。議論を尽くしての人物造型、脚本だからこそのリアリティがたっぷり。「なぜ、隠していたの」、「そのうちに相談しようと思って」などといったセリフからは、思わず、「ある、ある」とうなづいてしまう。

 映画のなかほどまでで、ほぼ人物の造型や、置かれた状況が理解できるようになっているが、それが徐々に崩れて、まったく異なると言っていいほどの人物として、たち現れてくる。あざやかな演出、深い計算である。

 人間は愚かだけれど、愛おしい。人間のこころの暗闇を見せながらも、月食の月がもとに戻るように、人間もまた、欠けていくことがあっても、ふたたびの輝きを取り戻すはずである。そのような思いやりもまた、愚かで愛おしい人間に向けられている。


 パオロ・ジェノヴェーゼ作品は、初めて見たが、シニカルなコメディタッチで、深い人間観察を提出、かなりの力量を思わせる。ホームパーティに7人の男女。テーブルセットされた席がひとつ、ぽつんと空けてある。そこに観客が座って、目前の7人の群像による会話劇を目撃することになる。粋な計らいだ。

 ジェノヴェーゼ作品で、日本での未公開がいくつかあるようだが、本作の公開がきっかけで、過去の作品も一般公開されないものだろうか。イタリアは、まだまだ優れた映画作品を作り続けている。喜ばしい限り。

●Story(あらすじ)

 月食のある日の夕方のローマ。ロッコ(マルコ・ジャリーニ)は美容整形外科医で、心理カウンセラーの妻エヴァ(カシア・スムトゥニアク)と瀟洒なアパートに住んでいる。料理自慢のロッコが、幼なじみの友人たちのために腕をふるっている。エヴァは、17歳の娘ソフィアとの仲がいまひとつ、うまくいっていない。ソフィアのバッグからコンドームを見つけたからと、ソフィアを問いつめる。ロッコは、「もう17歳なんだから」と鷹揚である。

 コジモ(エドアルド・レオ)は、タクシーの運転手で、つい最近、獣医のビアンカ(アルバ・ロルヴァケル)と結婚したばかり。ビアンカは、子どもが欲しいからと、ピルの服用を止めたことを、コジモに告げる。

 法律事務所に勤務のレレ(ヴァレリオ・マスタンドレア)と、妻のカルロッタ(アンナ・フォッリエッタ)は、結婚して17年になる。まだ幼い子どもがふたりと、レレの母親が同居、カルロッタは義母との同居がなにかと煩わしい。表面上はともかく、すでに夫婦仲は冷えきっている。

 コジモとビアンカ、レレとカルロッタの二組の夫婦が、ロッコのアパートにやってくる。あとは、離婚歴のあるペッペ(ジュゼッペ・バッティストン)の到着を待つだけとなる。ペッペは、肥っていて、性格はおっとり。今日は、新しい恋人のルチッラを連れてくることになっている。ところが、現れたのはペッペひとり。ルチッラは、風邪のために来れなくなったとのことで、みんなはがっかりする。ホーム・パーティが始まる。

 みんな、もう若くはない。恋愛や結婚などについて、それぞれが一家言、ある。男と女の違いが話題になる。どう、違うのか。「ウィンドウズとマックくらい」。「男は?」。「ウィンドウズ、ウィルスに弱く、平行作業ができない」。「女性は頭の回転が早く、直感的だから、マック」。「値段は高価で、互換性なし」。

 携帯電話が原因で浮気がばれ、離婚した夫婦の話から、エヴァが、思いつく。「いまや携帯は、生活すべてのブラックボックスのようなもの。互いの携帯のメールやメッセージを見せ合わない? 秘密なんかないよね」と。

 ためらいばがらも、みんなは、それぞれのスマホをテーブルに置く。コジモのスマホが鳴る。「あなたが欲しい」とのメッセージが出る。これは、娘のスマホを使ったロッコのいたずらだった。

 浮気がばれるのを恐れているレレは、独身のペッペに、スマホを置き換えるよう、頼む。

 やがて、次々と発信音が鳴り、電話やメールが届くようになる。そして、夫婦それぞれの隠しごとや、ペッペが仲間に隠していた秘密までもが、明るみに出てくる。

<作品情報>
「おとなの事情」
(C)Medusa Film 2015

2017年3月18日(土)、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
公式サイト

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