T2 トレインスポッティング 【今週末見るべき映画】

2017年 4月 7日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 人間というものは、20年の時を経ても、そう変化するものではない。相変わらず、愚かな者は愚か。それでも、相変わらずだからこその愛おしさを覚える。このほど、「トレインスポッティング」という映画の、ほぼ20年後の後日談ともいえる「T2 トレインスポッティング」(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給)が公開となる。


 ある映画がヒットする。柳の下にどじょうが二匹いるかのように、続編、パート2が作られる。またそこそこヒットすると、さらに続々編、パート3も作られたりする。一部の例外もあるが、いったいに、映画としてのパワー、魅力が乏しくなるのがふつうである。なかには、ヒットした映画の、そもそもの始まりは、といったたぐいまで作られる。まあ、ほどほどにと思うが、この「トレインスポッティング」が、日本で公開されたのは1996年11月である。20年を経てのパート2になるわけだが、映画としてのパワー、魅力はちっとも落ちていない。


 俳優たちは、前作と同じで、ユアン・マクレガー、ユエン・ブレルナー、ジョニー・リー・ミラー、ロ バート・カーライルが集結する。監督もまた同じダニー・ボイルである。「またか」と思い、「いまさら」と思いながら、その20年後を見たが、これが、とびきり、いいのである。後日談ではあるが、4人の人間が、この20年、どのような経験を経て、どのように人生と向き合っているかが、活写されている。単なる「懐かしさ」だけではない。それなりにみんな、いい年の中年おやじになっている。愚かさはなくならないけれど、ほどほどの分別を身につけている。


 パンク・ロックを聴き漁ったというアーヴィン・ウェルシュの「トレインスポッティング」、「トレインスポッティング0スキャグボーイズ」、「T2 トレインスポッティング」(いずれも池田真紀子訳・ハヤカワ文庫)といった原作小説のおもしろさもあるが、ジョニー・ホッジの手になる脚本が秀逸。さりげなく、しかも効果的に、20年前の状況がフラッシュバックされる。とにもかくにも、4人の人間像が、巧みにに描き分けられている。だれかひとり、ということではなく、いつのまにか、個性の異なる4人の不良おやじに、観客である自身を重ね合わせているのである。「こんなバカなことをして、いいわけがない」、「自分ならこうするのになあ」と、思いこませるだけで、パート2、続編にあたる「T2 トレインスポッティング」は、映画として勝利する。


 不良の若者たちである。前作は、まっとうな職業に就いたレントンが、麻薬絡みの大金を持ち逃げしたところで終わる。20年後、4人の性格、結果としての暮らしぶりは、結婚したり、子どもが出来たりもするが、ほとんど変わっていない。これを象徴するかのように、使われる音楽もまた、そう変わらない。当時のイギリスの音楽シーンには、疎い。それも、20年前の音楽が、いままた軽快に疾走している。

 過不足ないナレーション、タイミングのいいフラッシュバック、人物の心理状態の映像化など、監督ダニー・ボイルの美学、美意識は、さらに研ぎ澄まされている。

 もちろん、懐かしさもある。前作を見ている人ならなおさらだろう。 見ていない人でも、ほんの少し、想像力を働かすだけで、じゅうぶんに楽しめるように作られている。また、「T2 トレインスポッティング」を見る前でも見た後でも、前作の「トレインスポッティング」をご覧になると、さらに楽しめることと思う。


 蛇足ながら、「トレインスポッティング」とは、もともとは、鉄道マニア、鉄道ファン、鉄道オタクのこと。スコットランドの首都エディンバラ郊外のリースという町に、かつて鉄道の操車場があり、それがそのまま放置されていて、ここに麻薬の売人や麻薬中毒の患者が出入りする。そういった連中のことを、「トレインスポッティング」とジョークにして呼んだところかららしい。風俗、時代、若者の生態が活写された原作のタイトルが、的を射て、いいですね。

●Story(あらすじ)

 スコットランドのエディンバラ。20年ほど前、麻薬に手を出したり、こそ泥を働 いていた若者たちは、もういい年の中年になっている。

 以前、麻薬の取引で、大金のほとんどを持ち逃げしたレントン(ユアン・マクレガー)が、20年ぶりに、逃避先のオランダから戻ってくる。その間、レントンの母親は亡くなり、いまは老いた父親だけが暮らしている。レントンは、かつて暮らした自分の部屋で、思い出にふける。

 エディンバラには、レントンの仲間たちがいる。いちばんの親友のシックボーイことサイモン(ジョニー・リー・ミラー)は、叔母の援助で開いたパブを経営しているが、これは表向きの姿で、裏では、けちなゆすりや売春稼業の日々。もちろん、麻薬を常用している。

 人のいいスパッド(ユエン・ブレムナー)は、配管工や大工仕事をしているが、遅刻の常習犯 で、仕事先から解雇される。妻のゲイル(シャーリー・アンダーソン)や子どもからも嫌われている始末。

 血の気が多く、ケンカ早いベグビー(ロバート・カーライル)は、酒場のケンカで人を殺し、20年の刑で服役中だった。仮出所を申請しても通らない。策を練ったベグビーは、刑務所から脱走する。

 レントンは、スパッドのアパートを訪ねる。仕事をなくし、妻からもひどい仕打ちを受けたスパッドは、自殺寸前。危機一髪、レントンはスパッドを救う。かつて、レントンは、麻薬で手にした大金の一部をスパッドに渡していたが、スパッドは、すべて麻薬のために使いきっていた。

 レントンはスパッドから、サイモンやベグビーの近況を聞く。レントンは、サイモンのいるパブを訪ね、ここ 20年の身の上を語る。レントンは、アムステルダムで会計士の勉強をした後、ごくふつうに結婚生活を送っていたことを話す。サイモンは、大金を持ち逃げしたレントンに怒りをぶつける。レントンは、サイモンに分け前を差し出す。

 サイモンの裏稼業の売春に手を貸しているのがブルガリア生まれのベロニカ(アンジェラ・ネディヤコバ)だ。手口は、美人局よろしく、客との性行為を盗み撮りして、金を巻き上げるというもの。ベロニカは、そんな仕事にほとほと嫌気がさしている。

 刑務所を脱走したベグビーは、妻と息子に再会する。ベグビーは、すでに成長した息子を泥棒稼業に引き込もうとするが、あっさりと拒否される。

 レントンとサイモンは、いままで以上に親密になっていく。かつ てレントンとつきあっていたダイアン(ケリー・マクドナルド)は、いまや弁護士になっている。自殺寸前、レントンに救われたスパッドは、なにやら小説らしいものを書き始め、ボクシングの練習も始める。ベグビーは、いまなお、大金を持ち逃げしたレントンを許すことが出来ず、復讐を考えている。

 レントンとスパッドは、サイモンを誘って、旅に出る。若くして感染症で亡くなった、かつての仲間トミーを偲んでの旅である。

 レントンとベグビーの再会の日が近づいてくる。(文・二井康雄)

<作品情報>
「T2 トレインスポッティング」

2017年4月8日(土)、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト

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