パージ:大統領令 【今週末見るべき映画】

2017年 4月 13日 08:00 Category : Art

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 かつて、低予算の映画「パラノーマル・アクティビティ」を大ヒットさせたプロデューサーのジェイソン・ブラムと、やはり大ヒット映画「トランスフォーマー」のマイケル・ベイが手を組んだ「パージ」、「パージ:アナーキー」のシリーズが、やはり、大ヒットを飛ばしているようだ。監督はいずれもジェームズ・デモナコで、「ジャック」や「交渉人」の脚本を書いている。


 このトリオによる「パージ」シリーズの第3作目が「パージ:大統領令」(パルコ配給)だ。本欄では、いわゆるアート系の映画ばかりをレビューするわけではない。よく出来たエンタテインメント系の作品もまた独断ではあるが、レビューさせてもらっている。現に、2010年1月に公開された「パラノーマル・アクティビティ」は、本欄でレビューしている

 なによりも感心するのは、「パージ:大統領令」には、いろんな映画のジャンルが、寄せ鍋のように、ぎっしりと詰めこまれていること。ジャンルで言うならホラー、アクション、SFあたりに分類されると思うが、そこに、しっかりと政治的メッセージが存在する。銃撃戦に次ぐ銃撃戦、冷や冷やする格闘シーン、あまたのホラー映画によく出てくるマスクをかぶった奇妙な一団、近未来のアメリカにおけるディストピアな雰囲気などなど、サービス満点のエンタテインメントでもある。


 映画全体の設定が奇抜で、アイデア賞もの。「1年に一晩だけ、殺人を含む全ての犯罪が許される法律(パージ)」のあるアメリカが舞台。なるほど、と思う。殺人とまでは行かなくても、いまの日本でも、たとえば、一部の政治家や国会議員には、退場してほしい人物が大勢いる。会社員なら、いなくなってほしい経営者や上司がいるだろう。「パージ:大統領令」は、権力にふみにじられる、ごくふつうの人間の、ごくふつうの感情に訴える力を備えている。


 極右政権が支配するアメリカ。犯罪を最小限に押さえる手段として「パージ」を容認している。そこに、「パージ」撤廃を主張する、ローンという女性の上院議員が現れる。「パージ」の是非をめぐっての大統領選挙になる。選挙運動のさなか、殺人を含め、すべての犯罪が許される、パージの日がやってくる。


 ジェームズ・デモナコ監督は、映画の半ばまで、登場する人物たちをていねいに描いていく。なぜ、極右政権が「パージ」を支持するのか。新たな勢力は、なぜ、貧困層や社会的弱者を救済しようとするのか。そういった疑問がとけかかる頃、映画は大きなクライマックスを迎える。

 映画の資料に監督の言葉がある。「生き延びるためだけではなく、権力を濫用する連中から主権を取り戻すために戦う人間を描きたかった」と。日本は、「主権在民」である。にも拘わらず、権力を濫用する人たちであふれている。保身のために嘘をついたり、勝手に重要文書を廃棄したりする人たちであふれている。知らないうちに、さまざまな法律が出来つつある。法律が出来てからでは、遅いのである。いつのまにか、言いたいことが言えない時代になってからでは、遅いのである。


 映画のなかだけの話ではない。アメリカだけの話ではない。映画では、人間の主権、尊厳を守ろうと戦う人たちが描かれる。黒人やメキシコからの移民が大活躍する。その意味で、映画「パージ:大統領令」は、たいへん時宜を得た映画である。映画を楽しんだ後、いまの日本は、「主権在民」なのかどうかを考えるのも、映画からの「お釣り」を受け取ったようなもの。


 著名な大スターは出ていないが、だからこそのリアリティ。ホラー、アクション、SFの雰囲気が一挙に味わえ、政治への関心を高めてくれるはずの、お徳用映画とも言える。ラストでは、当然のように、次回作の製作を匂わせる。パート4の「パージ」にも期待したい。

●Story(あらすじ)

 2025年。アメリカを支配している極右集団が、「新しい建国の父たち」、通称、NFFA(New Founding Fathers of America)である。「パージ」という法律があり、貧困層を減らすために、年に1日、12時間に限って、殺人を含むすべての犯罪が許される。

 パージに基づいて、怪しげなマスクをした一団が、ある家族を惨殺しようとしている。

 18年後。政府は、年間の犯罪率を減らすために、年にいちどのパージを認めている。この年のパージの2日前である。ワシントンDCで、オーエンズ牧師の率いる極右集団のNFFAが、巨万の富を蓄えていると報道される。多くの抗議が殺到する。パージに反対する黒人のビショップ(エドウィン・ホッジ)は、テレビで演説する。「この20年、貧困を減らす殺人を容認してきた。歳出を抑えるために、福祉や医療費、住宅供給も削減している」と、パージに抵抗する構えをみせる。

 大統領選挙が始まろうとしている。オーエンズの対抗馬として、女性の上院議員ローン(エリザベス・ミッチェル)が出馬する。ローンは、18年前、パージによって、目の前で家族が惨殺されている。ローンは、パージの廃止を公約に掲げ、反パージ気運が盛り上がりつつある。いまや、ローンは、NFFAにとっては最大の敵で、NFAAは、今回のパージを利用して、ローン暗殺を画策する。

 この年のパージは、例外、特例が認められず、下級の政府職員まで、パージの対象となる。ローンは、安全と言われている場所ではなく、厚い警護を敷いた自宅で過ごすことになる。警備の一員のレオ(フランク・グリロ)は、殺された息子の復讐を願っている。また、食料品店を経営する黒人のジョー(ミケルティ・ウィリアムソン)は、パージ保険の保険料値上げの支払いができず、自らの力で、パージの略奪に抵抗する決意を固める。

 パージの日がやってくる。ローンの警備にあたる者のなかに、スパイがいて、ローンの居場所がばれてしまう。白人至上主義を唱える傭兵たちが、ローンやレオたちに襲いかかる。秘密の逃げ道から、ローンとレオは抜け出すが、マスクをかぶった一団が襲いかかってくる。危機一髪、ローンとレオは、ジョーの店で働くメキシコ移民のマルコス(ジョセフ・ジュリアン・ソリア)と、やはり以前からジョーが面倒をみていた女ギャングのレイ二ー(ベティ・ガブリエル)の助けによって、無事、逃げ延びる。

 傭兵や武装集団は執拗である。ローンたちに、次々と追っ手が迫ってくる。ローンたちは、安全といわれているトリアージ・センターに逃げ込む。ここは、ビショップたちのアジトで、パージに反対する医師や救命士たちが、殺されかけたホームレスたちを治療する施設でもある。ローンたちは、ここで、ビショップたちが実行しようとしているある計画を知ることになる。安全なはずのトリアージ・センターにも、執拗な傭兵たちの追っ手がのびてくる。

 ローンたちは、ぶじ、パージの夜を乗り切ることができるのだろうか。(文・二井康雄)

<作品情報>
「パージ:大統領令」
(C)2016 Universal Studios.

2017年4月14日(金)、TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
公式サイト

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