雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします
だれでも青春と呼べる時期はあったはず。それが、甘かろうと、切なかろうと、ほろにがかろうと、ともあれ青春である。「スウィート17モンスター」(カルチャヴィル配給)を見ていると、ふと、自らの17歳前後の頃を思い出す。

あまり受験勉強はせず、いろんな映画を見て、いろんな音楽を聴き、上級生の女性に、ほのかな想いを寄せる。半世紀が経過する。いまにして思えば、ほろにがく、だけど、どこか甘美さもあったと思いたい。
映画のヒロインは、17歳の女子高校生ネイディーンである。優等生で、ルックスのいい兄がいる。かっこいい兄に比べて、ネイディーンは、いまひとつパッとしない。ネイディーンは、いわば直情径行、わがまま、場の空気を読もうとしない。機嫌のよしあしがはっきり。そんなネイディーンにも、クラスメートの親友がいる。その親友が兄と恋仲になる。ネイディーンは、ショックを受ける。さて、どうなるか。
ネイディーンの若さまるだしの言動を見ていて、ほどほどの痛みを覚えるが、とても微笑ましい。その言動のことごとくが、若さではちきれている。うまくいくことは、ほとんど、ない。兄を最低と思い、パパが亡くなってからは、ママとはいざこざの繰り返し。ナイディーンによく話しかけてくる韓国系のボーイフレンドもいるが、あまり真剣にはなれないままで、むしろ、ひどくからかったりする。先輩の男の子とは、まるで、考え方の相違が明らかになるだけ。

いわば、おとなへのとば口にいるネイディーンの悲喜こもごもが、軽快な音楽に乗せて、スピーディに綴られていく。だから、若者だけが共感し、相づちを打つだけではない。おとな、老人と、どの世代のどなたが見ても、それなりの感慨があるはず。
ネイディーンを演じたのは、ヘイリー・スタインフェルドである。「トゥルー・グリッド」に出演、14歳の若さでアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされた。いまや、歌手としても成功、旬の女優だ。いい目をしている。目力というか、鋭い眼光で、真剣に周りを見つめる。これがかっこいい。

いい味で、映画を引き締めるのが、ちょいと風変わりな先生役のウディ・ハレルソンと、ママ役のキーラ・セジウィックである。こういった余裕ある演技をみせる俳優が出ると、映画そのものが、一段と輝きを増す。
これが監督デビューになるケリー・フレモン・クレイグのオリジナル脚本である。女性らしい繊細さだからこそ、若い女性の心理、生理を微細に描けるのだろう。いくぶん、あからさまな下ネタを散りばめて、おもわず苦笑いする。

甘く、切なく、ほろにがい時期は、足早に過ぎていく。おとなになるための試練は、多く、あったほうが望ましい。たぶん、ネイディーンは、すてきなおとなの女性に成長することと思う。ネイディーン、がんばれ!と、応援したくなる。楽しく、見終った。ウエルメイドだ。
●Story(あらすじ)
ネイディーン(ヘイリー・スタインヘルド)は17歳の女子高生。血相を変えて、担任のブルーナー先生(ウディ・ハレルソン)の部屋に入る。いきなり、「これから自殺する」とネイディーン。先生は、いつものことのように、落ち着いたもので、「そいつは驚いた、言葉もないね」。「私を止めないと、クビだよ」と迫るネイディーンに、「望むところだな」と先生。
まだ7歳のころのネイディーンは、優等生の兄ダリアン(ブレイク・ジェナー)が、ママのモナ(キーラ・セジウィック)のお気に入りで、自分は嫌われていると思いこんでいる。また、ネイディーンは、この世で人は2種類しかいないと思いこんでいる。「世渡りの上手な連中と、そいつらの滅亡を願う人たち」と。
ネイディーンの味方は、優しいパパだけで、車のなかで、ビリー・ジョエルなどを唄ってくれる。そのパパが車の事故で亡くなる。
パパが亡くなって4年後。いささか情緒不安定だったママは、歯医者のボーイフレンドと週末旅行に出かけるという。ネイディーンは、あいかわらずママに悪態をつく。
そんなネイディーンにも、同級生のクリスタ(ヘイリー・ルー・リチャードソン)という親友がいる。ところが、ママの留守の間に、ダリアンとクリスタが仲良くなってしまう。ネイディーンは怒り狂う。
そんなネイディーンに、いつも話しかけてくるのが韓国系のアーウィン(ヘイデン・ゼトー)だ。ぎこちないまま、ネイディーンとアーウィンは遊園地でデートするが、まったく進展はない。
ネイディーンは、クリスタに、「私か兄貴か、どっちかを選んで」と迫る。断るクリスタに、ネイディーンは思わず絶交宣言をしてしまう。
ネイディーンには、ひそかにあこがれているニックという上級生がいる。友達申請を送ったが、返事はない。
ネイディーンは、孤独と思う。やけっぱちになることも多い。アーウィンとの仲は一向に進展しない。あることから、やけになったネイディーンは、ニックのスマホに、とんでもないメールを送り付ける。これがもとで、まわりの人を巻きこんでの大騒動になる。
青春のまっただなか、お騒がせ屋のネイディーンは、どうなっていくのだろうか。(文・二井康雄)
<作品情報>
「スウィート17モンスター」
(C)MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
2017年4月22日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
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