エルミタージュ美術館 美を守る宮殿 【今週末見るべき映画】

2017年 4月 28日 08:00 Category : Art

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雑誌「暮しの手帖」の元副編集長で、映画ジャーナリストの二井康雄さんが、多くの映画の中から「今週末見るべき映画」をレビューします

 パリのルーブル、ロンドンのナショナル・ギャラリー、マドリードのプラドは、訪ねる機会があったが、ウィーンやニューヨーク、アムステルダムなどにある、行きたいけれど、まだ訪ねていない美術館は、多々ある。ロシアのサンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館もそのひとつ。


 エルミタージュ美術館については、日本でも何度か、一部のコレクションを見る機会はあったが、その膨大なコレクションのほんの一部で、全貌までは掴めない。

 このほど、イギリスの女性ドキュメンタリー作家、マージー・キンモンスが監督した「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」(ファインフィルムズ配給)が公開となる。その歴史、膨大なコレクション、美術館を維持するための辛苦など、分かりやすく、エルミタージュ美術館の全貌を伝えたドキュメンタリーだ。


 帝政ロシアの首都だったサンクトペテルブルク。1764年、ときの女帝エカテリーナ2世が、ベルリンの富豪から317点の絵画コレクションを購入する。その後、歴代の皇帝が、権力を見せつけるかのように、世界じゅうの優れた美術品を収集する。いわば、皇帝の宮殿がそのまま、美術館になるのだから、豪華絢爛、なにもかもが凄い、としか言いようがない。

 絵画、彫刻、宝飾品、陶磁器、武具など、数にして300万点。これが、2000もの部屋に保存されている。絵画だけでも1万7千点という。

 映画は正攻法、奇をてらわない。館長のミハイル・ピオトロフスキーをはじめ多くの関係者が、エルミタージュ美術館の歴史、そのコレクションを、ていねいに説明してくれる。ざっと紹介すると、エカテリーナ2世の正装ドレス。ティツィアーノの「エジプトへの逃避」。ラファエロの「聖ギオルギウスと竜」、「アルバの聖母」。レンブラントの「放蕩息子の帰還」、「ダナエ」、「聖家族」、「十字架降下」。スナイデルスの「鳥のコンサート」。ルーベンスの「修道士の頭部」。ベラスケスの「教皇インノケンティウス10世」。ヴァン・ダイクの「ウォートン卿フィリップの肖像」、「エリザベスとフィラデルフィア・ウォートン姉妹の肖像」。ミケランジェロの「うずくまる少年」。カラヴァッジョの「リュートを弾く若者」。「タウリスのヴィーナス」。レオナルド・ダ・ヴィンチの「リッタの聖母」、「ブノワの聖母」。……その都度、学芸員や関係者のコメントがはいる。


 ほかにも、ゴーギャン、カンディンスキー、ゴッホ、マティス、ピカソ、ドガ、ルノワール、ドーミエ、モネなどなど、枚挙にいとまがないくらいの傑作揃い。

 戦争による辛苦がある。第一次世界大戦時、収蔵品をモスクワに避難させる。レーニン率いるポルシェビキが、冬宮を襲う。レーニン時代には、陶磁器工場が国営となる。

 スターリン時代には、外貨獲得のために、アメリカの大財閥アンドリュー・メロンに、傑作21点を売却する。第二次世界大戦では、レニングラード(現サンクトペテルブルク)は、ドイツ軍に包囲される。ヒトラーは「レニングラードを壊滅させる」と迫る。当時の様子を知る老女の証言が生々しい。

 戦後、ドイツが没収した美術品を取り戻す。スターリンの死後、ゴッホ、ゴーギャン、マティス。ピカソなどの傑作が展示されることになる。いまは、プーチン大統領が、海外からの要人をエルミタージュに招く。


 たまたま、この6月18日(日)まで、六本木の森アーツセンターギャラリーで、「大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち」が開かれている。ルネサンスから17、18世紀のバロック、ロココの巨匠たちの絵画85点の展示である。見てみた。

 クラーナハの「林檎の木の下の聖母子」、ティツィアーノの「羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像」、スルバランの「聖母マリアの少女時代」、エリクセンの「戴冠式のローブを着たエカテリーナ2世の肖像」、レンブラントの「運命を悟るハマン」などなど、傑作そろい。壮観である。

 まだ、時間はある。ウィーンの美術史美術館、アムステルダムの国立美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館、そして、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館と、行く順序は迷うが、すべて、行きたいと思う。行こう。


 ちなみに、ロシアの映画監督アレクサンドル・ソクーロフが2002年に撮った「エルミタージュ幻想」という映画がある。日本では、2002年の東京フィルメックスで上映された。ソクーロフ自身が、まるで透明人間のようになり、実在の外交官とともに、エルミタージュ美術館に踏みいる。現在と過去が交錯し、歴史上の人物が相次いで登場する。1時間36分、ワンショットで撮られている。グリンカのマズルカで踊る舞踏会のシーンは圧巻。

DVDもあるので、あわせてご覧いただけると、エルミタージュ美術館とはいったいどのような場所なのか、より詳しく、ご理解いただけると思う。(文・二井康雄)

<作品情報>
「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」
(C)2014 by Foxtrot Films

2017年4月29日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
公式サイト

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